読書日記365:ぼくのメジャースプーン by辻村深月



タイトル:ぼくのメジャースプーン
作者:辻村深月
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ぼくらを襲った事件はテレビのニュースよりもっとずっとどうしようもなくひどかったー。ある日、学校で起きた陰惨な事件。ぼくの幼なじみ、ふみちゃんはショックのあまり心を閉ざし、言葉を失った。彼女のため、犯人に対してぼくだけにできることがある。チャンスは本当に一度だけ。これはぼくの闘いだ。


感想--------------------------------------------------
辻村深月さんの作品です。辻村深月さんはつい先日、「鍵のない夢を見る」で直木賞を受賞されましたね。「水底フェスタ」の紹介の際にも書いたように、前々からいつかは直木賞を受賞すだろうと思っていましたが、こんなに早いとは思いませんでした。

幼なじみのふみちゃんを襲った陰惨な事件。それ以来、心を閉ざしたふみちゃんのためにぼくだけにできることがある—。

この作者の作品を読むといつも思うのですが、この方もやはり人の描き方がとてもうまいな、と感じます。本書の主人公は小学生の「ぼく」です。陰惨な事件により傷つけられた幼なじみのふみちゃんのため、「ぼく」はその犯人に対して自分だけの力を駆使して戦いを仕掛けようとします。

本作で描かれている「ぼく」とふみちゃんの関係がとてもいいです。小学生ならではの素直な関係が丁寧に描かれていますね。この幼なじみ同士の二人のお互いを思いやる素直で優しい気持ちが本書の根底に流れているため、物語が常に優しい色を帯びています。この優しい描き方は女性の作者ならではでしょうね。あどけないながらも、読者を思わずにっこりさせる描写です。

本作では物語の中盤手前付近から「先生」という人が登場します。そしてこの「先生」と「ぼく」のやり取りが物語の大半を占めて行くのですが、このやり取りが第二のポイントでしょうね。特に「自分の大切な人が酷い目にあわされたとき、その犯人に自分ならどうするか」という問いのやり取りは興味深く思いながら読んでいました。

 「忘れて二度と関らないようにする」、「犯人と友達になる」、「犯人を被害者と同じ目に合わせる」。
 詳しくは本作を読んでいただきたいのですが、どの選択肢にも深い理由があり、その理由についてぼくは先生と議論を続けていきます。他にもぼくと「先生」は復讐に関する様々なことについて議論を繰り返し、「ぼく」はふみちゃんを思う気持ちと、自分が犯人にしたいことに対する意味について徐々に理解していきます。

ここの描き方は非常に丁寧でわかりやすく描かれているのですが、一方で非常に甘いなあ、とも感じてしまいます。「EDEN」などにも描かれている通り、いまこの瞬間にも世界の様々な場所で理不尽な理由で奪われていく命があるなかで、その犯人に対して復讐をするための理由付けをすることが、とても甘く感じてしまうのですね。実際には、例えば自分の大事な人が殺された人が、復讐を考えないわけもなく、犯人と友達になりたいとも思わないでしょう。小さな優しさなど簡単に踏み潰されてしまうほど現実は残酷なのですが、おそらく作者もそれを分かった上で、本作は非常に甘く描いています。そしてその甘さがこの作者のいいところでもあるのですが。

上の三つの選択肢であれば、おそらく私は「犯人を被害者と同じ目に合わせる」という三番目の選択肢を選ぶでしょうね。
「自分のために怒り狂って拳を振るう人がいる。大声で泣いてくれる人がいる。必死になって間違った何かをしてくれる人がいることを、被害者に知って欲しい」。作中に書かれている三番目の選択肢の理由を読んだときになんとなくわかったことですが、結局は誰もが寂しいのでしょうね。被害者も加害者も、自分の側に立って一緒に泣き、笑い、怒ってくれる人を欲しているんだな、って感じました。そしてこういう感情はきっと誰もが持っているのではないかとも思いました。そしてそういった人を持っている「ぼく」もふみちゃんも恐らく、それだけでとても幸せなのだろうとも感じました。

本作、最後にぼくは覚悟を見せ、そしてとてもいい終わり方をします。辻村深月さんの作品も、どの作品もはずれがないですね。「ぼく」とふみちゃん、二人を巡るとてもいい話でした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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「ぼくのメジャースプーン」
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Tracked: 2012-08-18 19:21

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