読書日記356:櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。 by村上龍
タイトル:櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている。
作者:村上 龍
出版元:ベストセラーズ
その他:
あらすじ----------------------------------------------
村上龍、待望のエッセイ最新刊! 衰退するこの国を襲った未曾有の危機。生かされた私たちに、いま何が問われて いるのか?「絆」という美しい言葉が隠蔽する問題の本質とは? 失われた希望 と欲望の時代に、村上龍が発する痛烈なメッセージ。「同情ではない。怒りだ! 」
感想--------------------------------------------------
「希望の国のエクソダス」や「半島を出よ」、「歌うクジラ」など村上龍さんの作品を読むといつも感じるのですが、この方の作品の根底には常に熱いものがありますね。それが何なのか最初のうちはわからなかったのですが、本書を読むことでその正体が怒りなのではないかと思うようになりました。本書「櫻の樹の下には瓦礫が埋まっている」は「メンズジョーカー」や「すべての男は消耗品である」に掲載されたエッセー集です。
「希望の国のエグゾダス」を読んで以来、この方の世の中の冷静な見方に関心を持っていたのですが、やはりその見方は変わりませんね。世の中を冷酷なまでにシビアに、リアルに見つめています。そしてそのどの見方もが理路整然と説明されており、「確かに」と思わせる論理をも持っています。
日本の世の中については非常にシビアな見方をしている村上龍さんですが、私が一つ非常に面白いと思ったのは「『憂鬱』と『希望』」と題したエッセイの中で、サッカーのメッシ選手やテニスのフェデラー選手やナダル選手の試合を通して、「これからもこういった感動を味わうことが出来るかもしれない」と希望を持った箇所です。確かに世の中には暗いニュースが多いですが、それは世界の一側面だけを現わしており、世界には楽しいことや感動するようなことが現在も多く起きている、ということからも眼を逸らしがちになりますね。確かに世の中はこれからも続くし、きっと悪いことと同じくらい、いいことも起こるのでしょうね。
「村上龍さんの文章の根底には熱い怒りがある」と書きましたが、また一方で文章にはその緻密な論理構成が、表現の隙のなさが、しっかりと描かれています。「歌うクジラ」で特に感じましたが、それはこのエッセー集でも同じですね。読む側が自然と襟を正して読んでしまうような、そんな文章です。もう還暦を迎えられたそうですが、「『差別』と『偏愛』」と題したエッセーにも書かれているように、戦後の高度成長期を経験してきた人間に比べると若い我々の世代はそのパワー自体が足りずに、自然と文章の持つパワーに気圧されてしまうのかもしれません。
こういったパワーの違いは世代の違いもさることながら、国家間でも大きく違うのではないかと感じます。日本は恐らく世界でも最弱でしょうね……。高度成長を経験していろいろな意味で成熟しきったこの国と、現在進行形で成長し続けている国では様々な面でパワーが違い、それが政治、経済など様々な面に現れているのでしょうね。
私は個人的にはこの方の作品は好きです。熱く、どろどろしていて、真っ直ぐで、それでいてどこかに愛がある。読んでいてそんな作品のような気がします。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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