読書日記335:水底フェスタ by辻村深月



タイトル:水底フェスタ
作者:辻村深月
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあったー。辻村深月が描く一生に一度の恋。

感想--------------------------------------------------
辻村深月さんの作品です。この方の作品は久しぶりに読みますね。本作は昨年出版された比較的新しい作品です。

高校生の広海は地元の睦ツ代村で開催されるムツシロ・ロック・フェスティバルで織場由貴美と出会う。由貴美に魅了された広海は、由貴美から睦ツ代村に隠された大きな秘密を打ち明けられる—。

辻村深月さんの作品を読むといつも思い、この作品でも思ったことなのですが、この方は男性と女性の描き方が対照的ですね。登場人物の男性はほとんが、たとえ悪ぶっていたとしても根はピュアなのに対し、女性は表面的には魅力的でも、裏にはどこかに打算があり、女としての本質的な匂いのようなものがしっかりと描かれています。男性登場人物である広海、達哉、光広、飛雄と女性登場人物である由貴美、門音、美津子、由貴美の母を比べるとそこが顕著に分かります。女性が表の顔の裏に隠れた別の顔がありどちらかというと現実的に描かれているのに対し、男性はどこかロマンチストとして描かれているのはやはり著者が女性だからでしょうか。

読み終わっての感想ですが、本作はミステリ的な側面もありますが、どちらかというと広海という高校生の成長の物語といったほうがいい気がします。地元の閉塞感のある小さな村で生活していた広海が、年上の美しい女性との出会いを通して、外の世界への憧れを持ち、家族や友人との対立を通して成長し、自立ていく——そんなストーリーだと思って読むべきなのかな、と思いました。逆にミステリーだと思って読むと、終わり方がどうも中途半端な気がしますね。広海の成長の物語だと思えば、中途半端なラストもある程度、納得感をもって読み終えることができます。

本作は由貴美という女性と、広海が中心となって進んで行く話です。二人の生まれた睦ツ代村にまつわる話を二人の恋を中心として描いて行く様や、二人の家系が話に大きなインパクトを与えるあたりは、ロミオとジュリエットみたいだな、なんて思ったりもします。多くの伏線が張られ、その伏線がしっかりと回収されていくあたりなどミステリとしてのできもいいなあとは思います。しかし、繰り返しになりますがやはり本作は広海の成長の話として考えた方がよさそうですね。

睦ツ代村と広海を巡る女性たちの描き方は、この著者の持ち味が十分に生きています。女性ならではの視点で登場人物の女性達の性格の細部までしっかりと描く一方で、広海の心情も、その若さや、若者特有の危うさまで含めてしっかりと描いています。広海の心情の描き方はうまいですね。「凍りのくじら」や「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」などこれまで読んだ作品の多くでは主人公は女性だったのですが、男性視点での物語の描き方も遜色なくうまいと感じました。

あと難点をあげるとすると、展開が少しゆっくりめかな、とは感じました。本題に入るまでに少し時間がかかる物語ではあるかと思います。山間の村の描写はそれはそれでいいのですが。あとテーマが殺人などではないため、少し地味な印象は否めません。あと、登場人物にどう感じるかにもよりますが、人によって、特に男女によって意見の分かれそうな作品だな、とも感じました。

女性としての視点を活かして、多くのストーリーを書き上げていく辻村深月さんは、私はそのうち直木賞を獲るのではないか?とも思っているのですが、いかがでしょうね。候補に上げられたことはあるようですし。また別の作品も読むつもりです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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Excerpt: 村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き“村を売る”ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった―。辻村深月が描く一....
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