読書日記322:ふがいない僕は空を見た by窪 美澄



タイトル:ふがいない僕は空を見た
作者:窪 美澄 (著)
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
これって性欲?でも、それだけじゃないはず。高校一年、斉藤卓巳。ずっと好きだったクラスメートに告白されても、頭の中はコミケで出会った主婦、あんずのことでいっぱい。団地で暮らす同級生、助産院をいとなむお母さん…16歳のやりきれない思いは周りの人たちに波紋を広げ、彼らの生きかたまでも変えていく。第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞受賞、嫉妬、感傷、愛着、僕らをゆさぶる衝動をまばゆくさらけだすデビュー作。


感想--------------------------------------------------
「女による女のためのR-18文学賞」という賞の受賞作が本作です。それだけでなく、山本周五郎賞受賞、本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10第1位、本屋大賞第2位と、様々な賞を総なめにしたのが本作、「ふがいない僕は空を見た」です。話題になっていた本ですので、ぜひ読んでみたいと思っていましたが、ようやく読むことができました。

高校生の斉藤卓巳は人妻のあんずと関係を持ってしまう。そのことが原因で、卓巳に恋する七菜、卓巳の友人の良太、卓巳の母親にも影響を与えていく—。

性と、その先にある命と、生きるということ。
いきなりですが、本書で書かれていることを簡潔にまとめるとこの三つだと思いました。性を単なるエロスとしてだけでなく、生まれてくる命の原点としても捉え、その性に翻弄される人々の哀切と、それでもその性の果てに生まれてくる命と、その生まれてきた命がつないでいく生きるということを丁寧に描いている作品だと思います。

本書は「ミクマリ」「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」「2035年のオーガズム」「セイタカアワダチソウの空」「花粉・受粉」の五つの章から構成されています。人妻と関係を持った高校生の斉藤卓巳、その相手の人妻:あんず、卓巳に恋する七菜、卓巳の友人の良太、卓巳の母親、と各章で視点が変わっていき、卓巳の恋に影響を受ける人々の姿を丁寧に描いています。

性描写や、性に関する表現が非常に多く、特に序盤の章ではそれが殊更あけすけな表現で描かれているため、なれない人は嫌悪感を覚えるかもしれません。実際、私もそうだったのですが、読み進むに連れてどんどんと面白く、引き込まれていきます。私としては特に後半の三つの章は没頭して一気に読んでしまいました。性描写は確かに多いのですが、それが単純ないやらしさだけで描かれていないところがポイントです。

性交渉、不妊治療、異性への恋、同性愛、思春期、出産、そして生きるということ—。

本書では性に纏わるこれらのどれもときちんと正面から向き合って、しっかりと描いています。まずこのことが非常に好感をもてます。そして登場人物の多くがそれらに翻弄されていくのですが、その描き方もセンチメンタリズムに陥ることなく、各個人をもきちんと正面から描いています。年上の人妻へ恋する高校生、人生の底辺を歩き浮き上がれない人妻、好きな人に振り向いてもらえない女子高生、苦しい生活から抜け出すきっかけを見つける高校生、そして新しい命を手にする仕事を職業とした女性。その誰もが恋愛や性や自分の人生に翻弄され、傷付き、悩み、笑い、そして生きていきます。

生きるということの辛さ、爽やかさ。そして性に翻弄されながらも新たな命を創り、産み育て、次の世代へと生きるということをつないでいく人間というもの、人生というもの。何度も書きますが、そのようなまさに「生きる」ということを爽やかに丁寧に描いた傑作だと思います。読み終えたときの読後感もよく、爽やかな読後感が残ります。

私としては、私にとっての異性である女性がこのような作品を書かれているということが驚きであり、喜びでもありました。この方の次の作品もぜひ読んでみたいですね。傑作です。あと、装丁も本書はすごくいいですね。シャボン玉の舞う空。美しいです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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「ふがいない僕は空を見た」窪美澄
Excerpt: 刺激的な表現の小説と思ったら、ヒューマンドラマで終わる連作短編集。 山本周五郎賞受賞作、2011年本屋大賞2位。    【送料無料】ふがいない僕は空を見た [ 窪美澄 ]価格:1,470円(税込、送料..
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Tracked: 2012-12-01 09:33