タイトル:境遇
作者:湊かなえ
出版元:双葉社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
デビュー作の絵本がベストセラーとなった陽子と、新聞記者の晴美は親友同士。共に幼いころ親に捨てられた過去を持つ。ある日、脅迫状とともに、陽子の息子が誘拐され…。
感想--------------------------------------------------
湊かなえさんの最新作です。ドラマ化のために作成された作品だそうですね。「告白」の大ヒット以降、凄まじい人気です。
供に施設で育った境遇を持ち、かけがえのない親友として育った晴美と陽子。県議会議員の妻となった陽子の息子、裕太が何者かに誘拐される—。
本作は250ページ程度ですが、あっという間に読み終わることができました。この読み出すと止まらず最後まで読み終えてしまう、というのは湊かなえさんの作品ならではですね。この読み易さは非常に評価できるかと思います。
本作は晴美と陽子と言う二人の女性を主軸に、二人の女性の視点を交互に入れ替えながら展開して行きます。議員の妻と新聞記者という対照的な設定の二人ですが、二人とも胸の奥に秘めた思いや、奇麗事だけではすまない黒い感情もあり、そういった点を隠さずにしっかりと描いている点はいいですね。「告白」でもそうでしたが、この作家さんはこういった黒い感情をしっかりと生々しく描くことが出来る点が持ち味であるとも思っていますので。
作品自体はすんなりと読むことが出来るのですが、決定的な難点として、各登場人物の心情の描きこみが浅すぎますね。前作の「花の鎖」でもそうでしたが、人がいてミステリがあるのではなく、ミステリを成り立たせるためのコマとして人がいる、という感想が最後まで抜け切りません。人の心情描写があまりにも浅く、言い訳めいたその心情の説明文が続くだけですので、主人公を始めとする登場人物の誰にも全く感情移入ができません。
ミステリ自体も大したものではなく、ミステリにある程度詳しい人であればその犯人や、最後のサプライズにも気付くのではないでしょうか。ミステリもその周囲を補強する登場人物の心情も弱いため、正直に言うと作者が湊かなえさんでなければ、ほとんどアピールできる点がないのではないかとさえ思ってしまいます。本作は筋書きはいいと思うのですが、繰り返しになりますが、登場人物の心情描写が浅すぎます。宮部みゆきさんのように徹底的に心情描写を描きこむことができれば良作になるのではないかと思います。少なくとも倍のページ数になるくらいの描きこみは必要でしょうね。
ドラマはどのようなできだったのでしょうね。大筋はいいと思うので、各登場人物の心情をしっかりと描きこみ、俳優さん女優さんの演技力でカバーすることができれば、良作になるかもしれません。
何度も書いていますが、「告白」の衝撃があまりにも強すぎたため、あの作品を越えることができていないですね…。このままだと正直、以降の作品は読みにくいなあ、って思ってしまいました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):C
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