読書日記320:世界を変えるデザインーものづくりには夢がある



タイトル:世界を変えるデザインーものづくりには夢がある
作者:シンシア スミス (著), 槌屋 詩野 (監修), 北村 陽子 (翻訳)
出版元:英治出版
その他:

あらすじ----------------------------------------------
本当に必要とされる仕事がしたい。利用者の喜ぶ顔が見たい。夢を追うデザイナーや建築家、エンジニアや起業家たちの、アイデアと良心から生まれたデザイン・イノベーション実例集。



感想--------------------------------------------------
先日、プレゼンテーションのデザインに関する「プレゼンテーションZENデザイン」を紹介し、また今後は機能よりもデザインを生み出せるクリエイティビティを持つ人が必要とされると語られている「ハイ・コンセプト」を紹介しましたが、本書もデザインに関する本です。「デザイン」というのは今の世の中では非常に重視されているのだな、と実感します。

本書の特徴は表紙にも「Design for the other 90%」と大きく書かれていますが、「残り90%のためのデザイン」であることが、最も大きな特徴です。

—世界の人口65億人のうち、90%にあたる58億人は私たちの多くにとって当たり前の製品やサービスに、まったくといっていいほど縁がない—
本書はこのようなイントロダクションから始まります。そしてこう続けます。
—「思い」だけでは、何も変わらない。お金の援助も、それだけでは不十分。実際に人々のライフスタイルを改善する、具体的な「もの(製品)」が必要なのだ。そのような「もの」をつくる上で、「デザイン」の役割は欠かせない—

本書の中でも特に、このイントロの部分に私はかなり共感を覚えました。
様々な問題により苦しんでいる人々を扱ったノンフィクションは多いのですが、そういったノンフィクションの多くは最後にこうまとめています。
「このような現状を我々が理解することが大切なのだ」
私はこのようなまとめ方に常々違和感を感じていました。確かに現状を理解することは大切ですが、それだけでは何も変わりません。しかし本書に登場する方々は「思い」だけでは何も変わらないということを、よく理解されており、自分達の武器でなんとか現状を変えようと努力していきます。そしてその武器こそが「デザイン」です。

本書の中には多くのデザインを活かした製品が登場します。竹製足踏みポンプ、ドリップ灌漑システム、子供用のラップトップ、サトウキビを使用した練炭—そのどれもがデザインをたくみに活かすことで、「残りの90%」の人々の生活を豊かに出来るものです。そのどれもがシンプルであり、同時に良く練られています。

イントロダクションに続き、私がなるほど、と思ったのは「収入を得るためのキックスタート」と題した章で語られている「最貧困層にビジネスを展開する上で重要なこと」です。いくつかを箇条書きにすると以下の通りです。

  ・最優先事項から始めること:収入
   (まず貧困層に収入を生み出さないと長続きしない)
  ・一般に貧困層は時間や労働力が不足しているわけではない
   (我々は時間や労働力を節約する仕組みを重宝するが、彼らには意味がない)
  ・金を節約する装置は安くなければ意味がない
   (便利な装置でも高いと意味がない)
  ・将来の収入より現在の収入
   (出費以上の見返りがすぐに得られる必要がある)
  ・タダは禁物。依存ではなく、尊厳を生み出すこと
   (後述。最も重要)
  ・個人所有が最もうまくいく
   (みんなでシェアするものは、結局、誰のものでもなくなる。
    これは富裕層、貧困層、問わず同じ)
  ・貧しい人たちを理解し、彼らの問題を解決する
   (彼らが必要としているものをちゃんと理解する。
    時には彼らと暮らして理解する)

我々が貧困層を思い浮かべるとき、どうしてもそこには、「寄付」や「施し」といったイメージがつきまといます。「貧しい人たちに無償で分け与える」。確かにその姿は美しいですが、本章ではそれを厳しく禁じています。

貧困層に必要なのは一時的なお金ではない、と本章では言っています。
本当に必要なのは仕事であり、お金を生み出すためのシステム、サプライチェーンだと言っています。今までの生活から抜け出すための仕事と、その仕事を継続することで規模の拡大や、その仕事に関連した事業の拡大を図ることが出来るようになること、それが非常に重要だといっています。そしてこのような仕事ができるようになると、「尊厳」が生まれる、とも書かれています。そしてこの尊厳が非常に重要だとも言っています。

だから本章では、タダで製品を配ることは絶対にしていません。逆に、どうすれば必要機能を満たした上で、貧困層でも買える価格帯にすることができるかを必死に考えます。そして、ここで「デザイン」が非常に重要な役割を持ってきます。このパートが私は最も面白く読むことができました。大袈裟ではなく、「デザインは世界を変える力を持っている」そのことを実感できる章です。

本書で説明されているデザインを活かした製品は本当に多岐にわたり、世界中のあらゆる箇所の貧困層がターゲットとされ、中には大ヒットして大きな利益を生み出している製品もあります。デザインやアイデアというものをうまく使い貧困層をターゲットとしたビジネスをしっかりと展開することで、単なる寄付や施しを超える、本当の意味での「残り90%」の人たちへの継続的な支援が展開できるのだ、ということが良く分かりました。

「プレゼンテーションZenデザイン」や「ハイ・コンセプト」で語られているデザインの形とは少し異なりますが、これもデザインの本当の姿の一つであり、デザインの持つ大きな力を示した一つの姿だと実感しました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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