読書日記303:儚い羊たちの祝宴 by米澤穂信



タイトル:儚い羊たちの祝宴
作者:米澤穂信
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。


感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。この人の作品はついつい手に取ってしまいますね。私自身、古典部シリーズの折木奉太郎や小市民シリーズの小鳩くん&小山内さんのように屈折した主人公達にどことない魅力を感じているのかもしれません。

読書サークル「バベルの会」に関連した五つの事件—。

本作は「身内に不幸がありまして」「北の館の罪人」「山荘秘聞」「玉野五十鈴の誉れ」「儚い羊たちの祝宴」の五編からなる短編集です。五編の短編はそれぞれ読書サークル「バベルの会」を中心に緩くつながっていますが、基本的には別の作品ですね。そして五つの短編に共通する点は、それぞれの主人公が良家の子女、あるいは良家に勤める少女(女性)であるということでしょうか。

本作に納められた各短編には「最後の一文で衝撃を与える」という趣向が凝らされています。正直「一文」というのは言い過ぎのような気がしますが、最後に作者によって仕掛けられたある仕掛けが炸裂する、というのは共通している点です。この効果が最も邪悪に動作するのは後書きでも書かれていますが「玉野五十鈴の誉れ」ですね。一応ハッピーエンドといえばハッピーエンドなのですが、終わりの後味の悪さが溜まりません。…個人的にはこういう終わり方は大好きですが。その次は「身内に不幸がありまして」ですかね。こちらもこれだけのためにこんなことをするのか、という面白さがあります。

しかしこの作品はこれまでの米澤穂信作品と少しテイストが違いますね。ストーリーテリングがうまい作家さんだとは思っていましたが、この作品は特にうまいです。五編で共通している良家、旧家の雰囲気の出し方など抜群です。ストーリーのダークさとあいまって乙一さんや宮部みゆきさんを思い起こさせます。私の中では米澤作品の中では「インシテミル」に次ぐ面白さでした。

自らの造詣の深いミステリーや古典の知識を最大限に生かしてくみ上げられたミステリーは洗練の域に達してきている気もします。正直、この作品は五編で終わって欲しくない、とさえ思いました。こういった趣向を凝らした作品は古くからのミステリー好きにはたまらないのではないでしょうか。私も多くはないですがクイーンやチェスタトンを読んでおり、そういった巨匠の話を彷彿とさせます。(短編ということで、この話のイメージはチェスタトンでしょうか)

読み手を驚かせる、良質のミステリに出会えました。千街晶之さんの後書きもいいですね。非常にお勧めです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック