タイトル:往復書簡
作者:湊かなえ
出版元:幻冬舎
その他:
あらすじ----------------------------------------------
あれは本当に事故だったのだと、私に納得させてください。高校卒業以来十年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式。女子四人のうち一人だけ欠けた千秋は、行方不明だという。そこには五年前の「事故」が影を落としていた。真実を知りたい悦子は、式の後日、事故現場にいたというあずみと静香に手紙を送る-(「十年後の卒業文集」)。書簡形式の連作ミステリ。
感想--------------------------------------------------
湊かなえさんの作品です。この作品は先日紹介した「花の鎖」の前の作品です。順番は逆になってしまいましたが、ようやく読むことができました。
高校卒業から十年、小学校時代から二十年、中学時代から十五年…。交わされる手紙のやり取りの中で明らかとなる学生時代に隠された真実—。
本作は「十年後の卒業文集」、「二十年後の宿題」、「十五年後の補習」の三つの中篇から構成される作品です。各作品は微妙につながりがありそうですが、基本的には別個の作品と思っていただいた方がいいかと思います。
各作品に共通しているのは、どの作品も手紙の文章だけで構成されている、というものです。ある人が出した手紙に、相手が答え、さらにそれに答える—ということでタイトルにもなっている往復書簡の中身だけで各物語が構成されています。デビュー作の「告白」がモノローグ形式の作品でしたので、それに似ていると言っていいでしょうね。やはりこの作者はこういった書式が得意なのでしょう。
どの作品にも共通している点の二点目として、手紙の送り主、受け取り主に何らかの秘密がある、と言う点が挙げられます。過去に起きたある事件、その隠された真相が行き交う手紙によって徐々に明らかにされていきます。そしてこの徐々に明らかにされていくくだりは、さすが湊かなえ、と思わせるところでもあります。わくわく、どきどきする、というわけではないのですが、気が付くと読むのを止めることができません。この引き込み方はさすがだと思います。
しかし一方で難点として挙げられるのは、登場人物の相関関係のわかりにくさです。これは特に一作目の「十年後の卒業文集」がそうでした。基本的にストーリー=手紙のやり取りなので各登場人物の紹介など余分な要素が一切なく、誰が誰だかよくわかりません。そして登場人物の関係が把握できた、と思ったら物語が終わってしまいました。二作目、三作目は手紙の趣旨がしっかりしていたり、登場人物がすくなかったりと分かり易かったのですが、一作目は人物の相関関係や背景を追っている、という印象が少なからず、ありました。
あとは、やはりこの作者の売りであり、デビュー作「告白」で光っていた「すれ違い」の要素が少ない点があげられますね。物語をどこかきれいにまとめようとしているというか…。もっと弾けてもいいのではないかな、なんて「告白」のDVDをみていると思ったりもします。きれいなストーリーよりも人の性格の裏に隠された黒さを見たい、という人もおおいのですから。
この本で、これまでに刊行されている湊かなえさんの作品は全て読んだことになりますかね。やはりどうしても「告白」に目が行きますが、どの作品も読み出すととまりませんね。次回作にも期待です。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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