タイトル:龍神の雨
作者:道尾秀介
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。
感想--------------------------------------------------
道尾秀介さんの作品です。「月と蟹」で直木賞、「光媒の花」で山本周五郎賞、本作「龍神の雨」で大藪春彦賞とここ数年で数多くの文学賞を受賞している、いま最ものっている作家さんの一人ですね。
蓮と楓、辰也と圭介の二つの家族の運命が激しい豪雨に誘われるようにして交錯する。そして起こる一つの殺人—。
本作、ストーリーの展開と各登場人物の心理描写が非常に巧みです。特にストーリー展開は秀逸の一言に尽きます。本作は一章から四章+最終章で構成されているのですが、三章までの展開と四章以降の展開で印象ががらりとかわります。この展開の巧みさは実に見事です。何の予備知識もなく本書を読んだのですが、その展開に一瞬、呆然としました。そして本作に対する印象も大きく変わりました。なるほど、文学賞を受賞するだけのできです。
ストーリー展開が何よりも見事なのですが、登場人物の心理描写も実に見事です。血の通わない父親と暮らす蓮と楓、そして同じく血の通わない母親と暮らす辰也と圭介。唯一の兄弟、兄妹への思いと血の通わない親への鬱屈した思い。そういったものの描写が激しい雨の描写と重なって実に見事に描かれています。本作のテーマはおそらく家族というものへの思いなのでしょうが、そのくだりも見事です。ミステリーの枠を超えて、人間ドラマとしても十二分に成り立つほどのしっかりとしたできばえです。
伏線の張り方も非常に巧みです。作品の後半になって、ああ、あの伏線はここで生きてくるのか、と驚かされます。また龍にまつわる伝承の取り入れ方やその龍と重ねて描く人の描き方、そういったものもうまく、どこかホラー的な感覚さえ読み手に感じさせます。ミステリーとホラーを組み合わせたような作品の描き方は著者の持ち味ですが、その持ち味にはますます磨きがかかっていますね。
道尾秀介さんの作品はこれまで「背の眼」や「向日葵の咲かない夏」などを読んできていて、ミステリー作者としては一流の作家さんだなと思っていました。しかし本作を読むとその腕前にさらに明らかに磨きがかかっていることが分かります。年を経るごとに、作品を重ねるごとにその作品がどんどんと面白くなっていく。こんな作家さんの作品を読みたくないわけがありませんね。「月と蟹」や「光媒の花」、「カササギたちの四季」も読んでみたいと思いました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
↓よかったらクリックにご協力お願いします
レビュープラス
この記事へのコメント