読書日記272:月光 by誉田哲也
タイトル:月光
作者:誉田哲也
出版元:徳間書店
その他:
あらすじ----------------------------------------------
お姉ちゃんが死んだ。誰からも愛された人。優しく美しく、真っ白だった人。同級生のバイクによる不運な事故?違う、お姉ちゃんは殺されたんだー。姉と同じ高校に入り、一人の教師の協力を得て真相を探り始めた妹結花。そこには覗いてはならなかった姉の秘密がー。学園にピアノ・ソナタ「月光」が流れるとき、教師と生徒の心が狂う。
感想--------------------------------------------------
「ストロベリーナイト」や「武士道シックスティーン」で有名な誉田哲也さんの作品です。この作品は少し昔の作品ですね。「月光」とはベートーヴェンの「月光」のことを指します。
事故で亡くなった姉:涼子の死の真相を探る結花は、姉の死の裏に隠された悲劇を知ることになる—。
ずしりと重さを感じさせる悲劇的な作品です。
視点が次々と切り替わりながら物語が展開していくこの語り口はこれまでの作品と共通していますが、「ストロベリーナイト」や「ソウルケイジ」といった姫川玲子シリーズでは姫川たち捜査する側がわりと軽く、捜査される側が重く描かれているのに対し、本作では全体を通して「重さ」を感じさせる作品となっています。
序盤の展開、特に事故死した姉:涼子の死の経緯が語られる辺りは読んでいてその悲惨さに重苦しさを感じます。姫川シリーズでも犯人は悲惨な道を辿って犯行まで至ることが多いのですが、本作では被害者の涼子が本当にかわいそうでなりません。妹の結花と音楽教師の羽田の二人が協力して最終的に犯人を追い詰めていくのですが、犯人を追い詰めるそのプロセスよりも、被害者の悲惨さにばかりが印象に残りました。あとは語り手の一人、菅井の章ですかね。この章は菅井の言葉遣いや性根の悪さばかりが残って、どうにも下品な印象しか残りませんでした。(まあ、作者が意図してそう描いているのですが)
あと、本作ではどうも生きていない設定が多い、という印象もありました。主人公はピアノの全国チャンピオンという設定なのですが、読んでいてもとてもそうとは思えませんし、その設定もあまり生きているとは感じられませんでした。ネタバレになりますが、主人公と姉が実は血がつながっていない、という設定もそうですね。どこかで生きてくるのかと思いきや、顔が似ていない、という点でしか関係してきませんでした。どうも最初はいろいろと考えていたのに、それが最後まで生かされず、かといって設定を消すこともせず、ということで落ち着いてしまったのでしょうか。特にピアノの全国チャンピオンという設定だとすると、学校もそれなりの音楽学校であり、音楽一家と言うイメージがあるのですが、(「さよなら、ドビュッシー」ではまさにそうでした。)そのイメージがなく、いたって普通の一家のため、ちょっと浮いてしまっていますね。この様な箇所が結構多く、最後になって辻褄をいろいろとあわせたのかなあ、なんて思ってしまいました。
犯人を追い込んでいくプロセスや各キャラクターの心理描写はとてもよく、これは姫川シリーズにも受け継がれていますね。最近よく読む作家さんなので、また読んでみたいと思います。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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