タイトル:花の鎖
作者:湊 かなえ
出版元:文藝春秋
その他:
あらすじ----------------------------------------------
元英語講師の梨花、結婚後、子供ができずに悩む美雪、絵画講師の紗月。3人の女性の人生に影を落とす謎の男「K」。感動のミステリ。
感想--------------------------------------------------
湊かなえさんの最新作です。まだ「往復書簡」を未読なのですが一足先にこちらを読んでみました。湊かなえさん曰く、本作からセカンドステージに入るようですね。これまでとどのように作風を変えてくるのか、楽しみにしながら読んでみました。
亡くなった母の誕生日に今でも届く花束。梨花はその差出人「K」の正体を探り始める—。
本作は全六章から構成されており、そしてさらに各章が花、雪、月の三つのパートに分かれています。三つのパートではそれぞれ梨花、美雪、紗月という三人の女性の視線から物語が展開されていきます。同じ町を舞台として繰り広げられる三人の女性の話。その三人の女性の話がどのように絡み合うのか、そして「K」とは誰なのか—。謎を抱えたまま物語は展開していきます。視点を次々と切り替えながらモノローグ形式で物語を紡いでいく方式は湊かなえさんならではの持ち味ですね
本作、展開が急すぎるということと、登場人物が多すぎるということで、読み始めてすぐは正直のところなかなか物語りに入り込むことができませんでした。三つのパートが次々に切り替わるため、誰が誰なのかわからなくなってしまうんですね。物語の中盤頃でようやく物語の世界に入り込むができ、なんとなく三人の関係が分かってくると、そこから先はあっという間でした。この「一度読み始めたら止められなくなる」という点は湊かなえさんのこれまでの作品にも共通している点かと思います。その点は非常に評価できる点だと思います。
本作には一つ大きなトリックが隠されていて、そのトリックが物語り全体の肝となっており、三つのパートをつなぐ鍵ともなっています。だんだんと分かってくると「あ、そうなのか」と思うのですが、いかんせん物語がこのトリックに引っ張られすぎているような気がしました。普通、物語を活かす為にトリックを使うのだと思うのですが、本作ではともするとトリックを活かす為に物語があるような気がして、トリックが主体で物語がおまけのような気さえしてきます。まだまだトリックの使いこなしがこなれていないと感じました。最後に三つのパートを収斂させて全ての謎を明かしていくのですが、どうもこなれていない印象があります。以前紹介した東野圭吾さんの「新参者」はこのあたりが非常にうまかったです。いくつもの章で視点や登場人物を微妙に変えながら小さな物語を展開し、最後に本筋の真相につなげていくその物語構成の巧みさには驚かされました。東野圭吾さんと比較するのも酷ですがここのところはまだまだ改良の余地があると思います。
ただ、物語の展開のテンポや、後半から終盤にかけて読者の心を掴んだら一気に最後まで読ませる力、ところどころに現れる女性の真の、生の感情、といった点はさすがだと思いました。こういった点は相変わらず湊かなえさんらしく私はとても好きですし、こういった点こそが他の作家にはない、この作者の強みなんだと再認識させられます。
最初の「告白」のインパクトが強すぎたためどうしてもあの作品の影を引きずってしまいますが、これまでの作品も優に平均以上のできの作品だと思います。これまで以上にこういった強みを生かした作品がでてくると面白いと思いました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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