読書日記262:さよならドビュッシー by中山七里



タイトル:さよならドビュッシー
作者:中山七里
出版元:宝島社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生するー。第8回『このミス』大賞受賞作品。



感想--------------------------------------------------
本作は昨年のこのミス大賞の受賞作です。過去には「四日間の奇蹟」や「チームバチスタの栄光」が受賞している本賞ですが、今年は「完全なる首長竜の日」が受賞しています。本作品も非常に評価の高い作品ですので、ぜひ読んでみたいと思っています。

火事で全身火傷を負い二人の家族を失った香月遥は、ピアニストを目指して優秀な講師のもと練習を続ける。そんな彼女の周囲で不可思議な事件が起こり始めるー。

タイトルからも分かる通り、本作では音楽を主題に取り上げ、様々なピアノ曲が登場します。リスト、ショパン、そしてドビュッシーと様々な曲が登場するのですが、まず最初の感想としてその曲の表現がどれも素晴らしいです。私は音楽を聴かないため曲目や音楽的な表現を使われてもあまりピンとこないのですが、そんな私でもその曲や演奏の素晴らしさが文章からよく伝わってきます。この表現力は秀逸だと感じられました。

また、ミステリーパートもよくできています。最後にあるどんでん返しが用意されているのですが、その仕掛けが効果的に生きており、ああなるほど、と気持ちよく膝を叩きたくなるようなできばえです。ミステリは結構読んでいる方ですが、この仕掛けには最後まで気がつきませんでした。妻夫木聡さんもこの仕掛けには驚かれたようですね。なるほど、という出来です。

一方で難点としては、まず各人物の言葉遣い、喋り方が挙げられます。本として読んでいる分にはさほど違和感を感じないのですが、これが人が喋っている、と想像すると途端に何かわざとらしさを感じてしまいます。・・・言葉が説明的すぎる、と言ったらいいのでしょうか、人が喋っているようにどうしても読めてこないのです。劇の台本やト書きをそのまま登場人物が読んでいるような、そんな違和感を感じてしまいます。ミステリと音楽に注力し過ぎるあまり、肝心の「人」がどうも役者のように思えてしまい、なかなか「人」として感情移入できませんでした。物語や本としては読めるのですが、「こんな人たち本当はいないよ」と思えてしまいます。

さらに挙げてしまうと、主人公の女子が強すぎる、と感じてしまいます。全身に大火傷を負って生死の境を彷徨い、さらに家人を二人も亡くしているのに、その悲壮感があまり伝わってきません。痛い、苦しい、と表現されながらもどこか普通に日常を送っている主人公がなんか実在の人物に見えなくなってきます。生死の境を彷徨うような大火傷を全身に負って、何十カ所も皮膚移植をして、それで数ヶ月後にはピアノコンクールに出場、というのはちょっと無理かなあ、って思ってしまいました。

まとめてしまいますと、本作はミステリとしてはよくできていると思います。音楽の表現も素晴らしく、仕掛けも抜群です。しかし、ミステリを超えるものではありません。あくまでミステリの範疇です。ここがこの作品の限界かと思いました。

比べるのも変な話ですが、「四日間の奇蹟」では(私が読んだ範囲では、このミス大賞ではこれが最優秀だと思います)主人公の哀しみや喪失と再生を主題としているため、人間の心に訴えるだけの何かがありました。また東野圭吾さんは素晴らしいミステリをいくつも残していますが、そのほとんどで真に描いているのは登場人物の苦悩であり、葛藤です。そういったミステリを越えたところでの何かを書いているためこれらの作品は記憶に残る素晴らしいできになる訳ですが、本作はそこまでのできではありません。『このミステリはすごい』大賞なのでミステリを書くのは当たり前ですが、その先の何かをどうしても読み手としては期待してしまいますね。ただ、それを期待してしまうのは、この作者が並外れた表現力を持っているからです。この作者には本作を越える、何か驚かせてくれる作品を期待します。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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