読書日記253:伏 贋作・里見八犬伝 by桜庭一樹
タイトル:伏 贋作・里見八犬伝
作者:桜庭 一樹
出版元:文藝春秋
その他:
あらすじ----------------------------------------------
娘で猟師の浜路は江戸に跋扈する人と犬の子孫「伏」を狩りに兄の元へやってきた。里見の家に端を発した長きに亘る因果の輪が今開く。
感想--------------------------------------------------
直木賞作家、桜庭一樹さんの作品です。女性の成長を描くのがとてもうまい作者ですが、時代劇のようなタイトルなので、どんな作品かとても楽しみでした。作品の途中にところどころにイラストが入っているという、珍しい作品です。
人を残虐な手口で見境なく殺し、江戸の街を騒がす犬人間「伏」たち。兄の道節を頼って山から出てきた猟師の少女・浜路。道節と浜路の兄弟は「伏」を探して江戸の街を行く—。
タイトルとして「贋作・里見八犬伝」と謳っているだけあって、有名な滝沢馬琴の里見八犬伝の話を背景として作られています。「道節」や「浜路」という名前も里見八犬伝の登場人物から来ていますね。また里見八犬伝の作者である滝沢馬琴も登場します。いろいろな要素を見るにつけ、本物の里見八犬伝から多大な影響を受けていることは容易に想像できます。
本作の面白いところは、主となる浜路のストーリーの中で、滝沢馬琴の息子・滝沢冥土により『贋作・里見八犬伝』という物語がかなりのページ数を割いて語られる点です。全体の三分の一程度のページ数を割いて語られるこの物語の中で、「伏」とはそもそも何処から来たのか、里見家に生じた悲劇を基に語られています。本物の里見八犬伝では伏姫と犬の八房の夫婦から生まれた八犬士が悪を退治していくのですが、本作で語られる『贋作・里見八犬伝』の中ではこの解釈が異なって語られています。私的にはこの『贋作・里見八犬伝』が非常に面白く読めました。本筋以上に楽しめたと言ってもいいかもしれません。物語として非常に良くできていますし、何より登場する人間が非常に生きています。
本作ではこのような「物語の中の物語」として語られるストーリーが他にもあります。そしてこの「物語の中の物語」だけで、全体の半分近くを占めています。これはこれで面白いのですが、残念ながらこのせいで物語全体としてのバランスは悪くなっているように感じられました。「物語の中の物語」の方は割と深くて重く、その分、面白いのですが一方で本筋の方が軽く読めてしまいます。そして物語の最初は浜路の視点で物語を見ていたのに、後半になると「伏」の視点で物語が見えてきてしまい、なんとなくですが、物語が中途半端に見えてきてしまうのです。また物語り自体の終わり方も中途半端な感じが否めません。「伏」を完全な悪者にしなかったのはいいですが、道節と浜路の背景の描きこみが足りない分、どちらかというと私は「伏」に同情してしまい主人公に感情移入ができませんでした。
一方で「製鉄天使」でも見られたどことなく芝居がかった物語の描き方は、本作ではとてもはまっているように思われました。これは舞台が江戸時代の江戸の城下町、ということで芝居がかった描き方がとても適しているからでしょうね。少女である浜路の描き方や、少女から女性へと成長していく伏姫の描き方もとてもこの作者らしくうまいと思いました。今、大河ドラマで「江」をやっていますが、このように時代劇で女性の一生を描いたような作品はこの作者の強みをいかせるのかもしれませんね。次回作にも期待です。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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