タイトル:夜行観覧車
作者:湊かなえ
出版元:双葉社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
父親が被害者で母親が加害者--。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。
感想--------------------------------------------------
「告白」で有名な湊かなえさんの作品です。この方の本は、今、最新作として「往復書簡」が出ていますね。本作はその一作前の作品となります。
高級住宅街、坂の上のひばりが丘に家を構える高橋家で殺人事件が起きる。その真相は…?
本作は「遠藤家」、「高橋家」、「小島さと子」という章の繰り返しで物語が構成されています。高級住宅街「ひばりが丘」に住む遠藤家、高橋家で繰り広げられる家族の日常と、やがて起きる一件の殺人事件。一見、幸せそうな家庭に何が起きたのか?その真相が章を進むに連れて少しずつ明らかになっていきます。
物語は遠藤家の夫婦と娘、高橋家の三人の兄弟の視点から描かれていきます。坂の上の高級住宅街と坂の下の平凡な住宅地。そのどちらにも属せず、両方を俯瞰できるものとして「観覧車」が存在し、それがそのまま本作のタイトルともなっています。
様々な視点から一つの事件を描きその事件の真相を徐々に明らかにすると共に、登場人物の心の裏を描いていく。そして、登場人物の誰もの心情が少しずつすれ違っている—。まさに湊かなえさんらしい作品です。ただ、本作の結末はこれまでの作品よりも、きれいにまとまっていると感じました。しかしこのまとめ方が個人的には「うーん」という感じですね。どうしても「告白」を読んでしまうと、最後の最後で読み手の期待を裏切るような派手などんでん返しをこの方の作品には期待してしまうのですが、本作にはそれがありません。むしろきれいにまとめてしまった分、物語に幾分かの物足りなささえ感じてしまいます。
殺人事件の真相も個人的には物足りず、家族のつながりを描きたかったのであろうとは思うのですが、そこも若干、中途半端になってしまっているため、総じて「物足りないなあ」と感じてしまいます。何よりも、「告白」で感じた「後味の悪さ」が足りないですね。「遠藤家」も「高橋家」も、家族が粉々になるような事件を引き起こしておき、作中であれだけ登場人物の心の裏に潜む負の感情を描いていながら、それでも何とかつながっていこうとするところがきれいにまとめすぎようとしているなあ、とも感じてしまいます。なんか無理しているなあ、という印象です。また高級住宅街であるひばりが丘に住む家族が持つ葛藤も、なかなか一般人には理解できないのでは無いでしょうか。
いろいろ書きましたが、湊かなえさんの作品らしく、あっという間に読めます。逆に言うといろいろ批判はあるのかもしれませんが、なんだかんだ言いながらこの方の作品は読み易くて熱中できる=面白いのでしょうね。いろいろ書きたくなってしまうのはどうしても次回作に期待をしてしまうからでしょう。今度はいっそのこと、どこまでも負の感情渦巻く話を書き込んで欲しいとも思いました。「往復書簡」にも期待してみます。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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レビュープラス
この記事へのコメント
ぺこ
「往復書簡」の紹介も、ありがとうございます。
早速、本屋さんで、探してきます。
taka
湊かなえさんの作品は後味の悪さと読みやすさがとても気に入っています。またぜひいらしてください。コメント、トラバ等も大歓迎です。