読書日記247:歌うクジラ 下 by村上龍
タイトル:歌うクジラ 下
作者:村上龍
出版元:講談社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
知らぬ声に導かれるように、果てしない旅は続く。やがて青い地球を彼方に眺める宇宙空間に想像を絶する告白が。圧倒的な筆力と想像力。村上龍渾身の壮大な希望の物語。
感想--------------------------------------------------
先日紹介した「歌うクジラ」の下巻です。読み終えての感想ですが、非常に難解で読む人を選ぶ作品だとは思いますが、とてもスケールの大きな話ですね。これだけの作品を書き上げるためには相当な熱意と準備が必要なのではないかと思います。
タナカアキラの旅は続く。理想村を通り、安息の洞窟を抜け、とうとう宇宙へ—。
タナカアキラの旅は続きます。タナカアキラが旅の途中で遭遇するのは、理想の姿に行き着いた人類の姿です。SW遺伝子を注入されて不死に近い寿命を得た最上層の住民、完全に棲み分けの行なわれた人間社会、どんな怪我や病気も治療するロボット、根源的な攻撃性から逸脱した人間が住む理想村—。どれも人間の理想の姿なのですが、そこに描かれている人間は皆、好ましいものではなく、嫌悪感さえ感じてしまいます。タナカアキラが最後に宇宙で出会う、不死に近い命を得て、絶大な権力を得た人間でさえ、その姿は哀れであり重力に逆らって動くことさえ出来ません。
そしてそんな人間の姿と対照的だと思えるのが、宇宙から見た「地球の夜明け」の姿です。この「地球の夜明け」を本作ではとても鮮烈に描いています。このシーンが私はとても印象に残りました。無限ともいえる宇宙の中では人間一人の存在などとてつもなく小さい。これは良く言われていることです。しかし、本作の中ではそれでありながらアキラは不安を感じていません。一人のタナカアキラの存在がとても大きく感じられます。
本作、特に後半ではこの世界自体の成り立ちが多くのページを割いて書かれています。人類がどのような変遷を辿って、ここにたどり着いたのか、人間がどのように考えたのか。本作で描かれている人間の姿は今と大きくは変わりません。特権階級は更なる特権を手にし、手にしようとし、下層の人間は生きることで手一杯です。このように人の存在がとても小さく描かれている一方で、主人公のタナカアキラの意思と存在は広大な宇宙の中でも存在感を持っています。
「生きる上で意味を持つことは他人との出会いだけだ」
「生きていたい」
この言葉が私はとても印象に残りました。崩壊しかかっている社会と行き着いてしまった人類。その中でもアキラは生きることに希望を見出し、旅の途中で出会った仲間を思い出します。これこそが人間の本質なのでしょうね。きっとここを、この言葉を作者は描きたかったのではないかと私は思いました。
本作、何度も書きますが性的描写や残酷な場面も多いため決して万人向けの本ではないと思います。しかし、本作を読み終えたときには大きな達成感と心の中に残る何かがあるのではないかと思います。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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