読書日記242:横道世之介 by吉田修一
タイトル:横道世之介
作者:吉田修一
出版元:
その他:
あらすじ----------------------------------------------
楽しい。涙があふれる。本年最高の傑作感動長編!
「王様のブランチ」「朝日新聞」ほか多数メディアで激賞。
横道世之介。
長崎の港町生まれ。その由来は『好色一代男』と思い切ってはみたものの、限りなく埼玉な東京に住む上京したての18歳。嫌みのない図々しさが人を呼び、呼ばれた人の頼みは断れないお人好し。とりたててなんにもないけれど、なんだかいろいろあったような気がしている「ザ・大学生」。どこにでもいそうで、でもサンバを踊るからなかなかいないかもしれない。なんだか、いい奴。
ー世之介が呼び覚ます、愛しい日々の、記憶のかけら。
名手・吉田修一が放つ、究極の青春小説!
感想--------------------------------------------------
「悪人」、「パレード」、「パークライフ」などヒット作を次々と出している吉田修一さん。本作はその吉田修一さんの作品です。本作は本屋大賞の候補にもなりました。
十八歳で東京の大学に通うために上京した横道世之介。お人好しでどこか抜けた彼は周囲の人を巻き込みながら大学生活を過ごしていく—。
本作は主人公:横道世之介の大学一年生の一年間を追った物語です。時代は八十年代、バブル絶頂期で日本が自信に満ちていた時代のお話です。大学に入学し、バイトに恋にサークルに大忙しの世之介。そんな彼でも一年を通じて少しずつ成長していきます。
主人公である横道世之介の個性の描き方がうまいですね。どこか周りと波長がずれていて、それでいて憎めない。図々しいのに悪気は無い。本人は一生懸命なのに周りは笑ってしまう。クラスに一人はこんな人がいるなあ、って思わせるキャラクターです。また世之介の故郷、長崎と東京の対比もいいですね。自然に満ちた長崎と物が満ち溢れあわただしく時間が過ぎていく東京。バブル絶頂期の日本を背景に人生で最も楽しい時間が過ぎて行きます。
本作は基本的に横道世之介を中心に話が進むのですが、ところどころで舞台が現代の日本に移ります。八十年代当時に世之介の周囲にいた人の現在を描きつつ、世之介の姿と共に当時を懐かしみます。そして物語には一つの大きなサプライズが待ち受けています。
本作、横道世之介の物語なのですが、この現代と八十年代の対比と過去への回想を取り入れることで、物語が格段に深く、面白くなっています。大人になった今から振り返ると全てが輝いていた大学時代と、その大学時代の思い出と共に甦る横道世之介の姿。誰しも振り返った過去の中には、本作の世之介のような、思い出と共に甦る人の一人や二人、いるのではないでしょうか。そんな過ぎ去った青春時代を思い起こさせる作品です。
本作は八十年代に青春時代を過ごし、今まさに四十台になる人たち向けの作品ですね。家庭と仕事に終われ何も見えなくなってしまった人にこそ読んで、あの青春時代を誰かの姿と共に思い出して欲しい。そんな作者の思いが伝わってくる作品です。これまでの吉田修一さんの作品とは随分と趣が違いますが、物語のうまさ、文章の巧みさはやはりこの作者ならではです。
本作、最後は少ししんみりとした終わり方です。でも最後のページの言葉は胸に響くものがあります。こんな楽しい人が周りにいたら、あまり係わり合いにはなりたくないけれど、ちょっといいかな、って思わせる作品でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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