タイトル:猫を抱いて象と泳ぐ
作者:小川洋子
出版元:文藝春秋
その他:
あらすじ----------------------------------------------
伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリョーヒンの、ひそやかな奇跡を描き尽くした、せつなく、いとおしい、宝物のような長篇小説
感想--------------------------------------------------
本屋大賞を受賞し、寺尾聡さんと深津絵里さん主演で映画化もされた「博士の愛した数式
祖父母と弟と慎ましく暮らす少年は廃バスを改造した住居に住むマスターにチェスを教わる。チェスの海はどこまでも広く、少年を虜にしていく―
御伽噺のような物語―
本書を読み終えての感想です。本書はチェスを愛し、偉大なるチェスの王者アリョーヒンにちなんでリトル・アリョーヒンと呼ばれた少年の話です。少年に多くの友達はいませんが、彼は決して孤独ではなく、彼にチェスを教えたマスターや像のインディラや猫のポーン、そしてミイラという名の肩に鳩を乗せた少女たちと心の中で会話をしながらチェスを指していきます。
この少年のどこまでも純粋な姿にまず心を打たれますね。少年は人前でチェスを指すことが苦手で、その姿をチェス板の下に隠しながら指していきますが、心では常に純粋にチェスのことを考えています。最強の手ではなく、最善の手を探して指す少年。その姿勢からは常に少年の優しさが感じられます。
小説全体に漂う、主人公の少年を静かに包み込むような優しい雰囲気。これがいいですね。きっと作者の少年への優しさの現われなのでしょうね。どこか寂しげな物語なのに、その根底にはぬくもりが感じられます。作品全体を通して感じられるこのぬくもりが本作をとても印象的なものにしています。
廃バスからスタートし、チェス倶楽部、老人ホームへとチェスを指す場所を変えながら少年は少しずつ成長していきます。少年は常に一人で「閉じて」いるのに、チェスと向き合うときその心は永遠の海へと泳ぎだして行きます。この描き方もうまいなあ、と思いました。「猫を抱いて象と泳ぐ」このタイトルもいいですね。チェスという大海原へと泳ぎだしていく少年の心をよく表していると思いますし、そのように少年を描いてくれた作者に感謝したくなります。
最後は少し悲しい終わり方でしたが、いいお話でした。大人も子供も読むことの出来る御伽噺のような作品です。「博士の愛した数式」でもそうでしたが、物語の根底に作者の「優しさ」が感じられますね。それが愛すべき作品に仕上げています。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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レビュープラス
この記事へのコメント
リバー
たしかに 優しい話でした
そして哀しみもなんともいえぬ感じで
しかし どうも共感というか
私的には世界観が好みではなかったですね
taka
どこの世界ともいつの時代ともわからない、不思議な世界での話なので、好き嫌いが分かれるのかもしれないですね。どこか子供向けの物語の中の世界の話のようでした。またぜひいらしてください。