読書日記213:神様のカルテ by夏川草介



タイトル:神様のカルテ
作者:夏川草介
出版元:小学館
その他:第十回小学館文庫小説賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
栗原一止は信州の小さな病院で働く、悲しむことが苦手な内科医である。ここでは常に医師が不足している。専門ではない分野の診療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を三日取れないことも日常茶飯事だ。そんな栗原に、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。
だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。第十回小学館文庫小説賞受賞作。


感想--------------------------------------------------
先日発表された本屋の方が最も売りたい本、本屋大賞2010。その第一位が冲方丁さんの「天地明察」、そしてその二位が本作「神様のカルテ」です。本作は映画化もされるそうですね。

長野の本庄病院で働く内科医:栗原一止のもとには今日も大勢の患者が押し寄せる。そしてそんな一止のもとに、大学病院で働かないかという話が来る―。

本作、勤務医の栗原一止の視点で話が進んでいきます。一止は漱石の「草枕」を愛読しているという設定で、古風な語り口でストーリーは展開していきます。ただそのストーリー展開はユーモアに溢れていますね。私は最初読んだときに「夜は短し歩けよ乙女」を思い出しました。語り口はよく似ています。きっと影響は受けているのでしょうね。

本作は大きく分けて三つの章「満天の星」、「門出の桜」、「月下の雪」から構成されています。各章では地方病院の勤務医という立場の一止が患者や同僚、同じ軒の下で暮らす仲間、妻といった様々な人々との触れ合いを通していろいろなことを学んでいく、という話です。そこには過酷な労働環境や患者の死といった厳しい現実もあるのですが、語り口が柔らかいためそこまで悲惨さは感じられません。それがいいです。

特に私が良いと感じたのは主人公の一止を始めとする各登場人物です。皆、個性的で愛すべきキャラクターです。特に一止の支えとなる妻であり山岳写真家でもある榛名のキャラクターが愛らしくてとてもいいですね。

作品としては「感動作」ということになるでしょうか。各登場人物との触れ合いでは涙を誘われる場面も多々あります。ただ個人的には「泣かせる」作品という位置づけではない気がします。泣かせる作品というと「百回泣くこと」や「世界の中心で、愛をさけぶ」みたいな話がすぐ浮かびますが、あんな悲しい話ではなく、むしろ清々しい作品かと思います。人生に絶望して自殺を図る者、末期の癌患者、疲弊しきった地方医療…悲惨な現実を突きつけはされますが、そこをユーモアを交えながら明るく描いています。
 本作は200ページあまりしかありませんので簡単に読むことができます。この短いページ数で感動を与えることが出来る点は評価できますね。そして読み終えた後にはまた一止や榛名さんたちの話の続きが読みたくなってきます。

映画では一止を桜井翔さんが、妻の榛名を宮崎あおいさんが演じるそうですね。宮崎あおいさんはイメージがぴったりですが…、桜井くんはどうでしょうね。どうもこの二人が夫婦、というのがしっくりこない気がします。加瀬遼さんとか、松山ケンイチさんとか、岡田将生さんの方が色々なことに悩む一止先生にあっている気がしますが…。まあ、期待してみましょうかね。

本作は短い構成でありながら医者の視点を通して、ユーモアを交えながら命の尊さを訴えている点が受けているのだと私は思います。とくに「短い」というのは読みやすく、誰でも手に取って読めるので受けているポイントではないかと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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