2010年06月09日

読書日記208:Nのために by湊かなえ



タイトル:Nのために
作者:湊かなえ
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「N」と出会う時、悲劇は起こるー。大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のためにー。タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。


感想--------------------------------------------------
告白」で本屋大賞を受賞した湊かなえさんの作品です。「告白」は松たか子さん主演で映画化もされていますね。本作「Nのために」は「告白」、「少女」、「贖罪」と続いてきた「二文字タイトルシリーズ」から一歩進んだ、湊かなえさん自身の新しい一歩となる作品です。

タワーマンションで一組の夫婦が殺される。その場に居合わせた「N」をイニシャルに持つ杉下希美、安藤望、西崎真人、成瀬慎司の四人がそれぞれ証言をするがー。

湊かなえさんの作品はどの作品もそうですが、本作も一人称の独白形式で物語が進んでいきます。そしてところどころで視点が変わることで、各人物の想いや価値観の「すれ違い」を浮き彫りにしていきます。特に印象的な作品はやはり代表作の「告白」でしょうね。後味の悪い終わり方でしたが非常に鮮烈でした。

さて本作、「Nのために」ですが、その名の通り四人のNというイニシャルを持つ登場人物の視点が切り替わりながら物語は進んでいきます。そして物語が進むに連れて四人の殺された夫妻への秘めたる想いや、過去、トラウマといったものが明らかにされていき、事件の真相が明かされていきます。誰もが誰かのことを想っての行動を取っていた。その真相はー。筋書きとしては非常に面白いと感じますし、実際、過去のストーリーはとてもおもしろいです。

読み終わっての感想ですが、やはり慣れてしまったせいか、「鮮烈さ」といったものが過去の作品ほど感じられなくなっていました。過去の作品ではこれでもか、というほどに登場人物の心がすれ違っていたのに、本作ではそういうこともなく、むしろどこかでお互いのことを気にしていて、それが過去の作品と比較して物語全体に「丸い」印象を与えています。「告白」と似た語り口ですが、本質はだいぶ違いますね。「告白」は非常に尖った作品でした。

あと、物語の後半にかけてやたら「愛」というものへの想いや描写が出てきます。「愛」とは何なのか?ある者は「罪の共有」と言いますが・・・。ここもちょっと分かりにくいですね。「愛」というものを前面に押し出しすぎているため、ちょっと鼻につく感があります。

さらに言ってしまうと、本作、各登場人物の過去やトラウマを明らかにしていき、そのトラウマや過去の行き付いた到着点として殺人事件があると思うのですが、残念ながら殺人事件の現場、真相がその過去やトラウマの弾けた点とは思えないほどあっさり描かれています。過去やトラウマに押しつぶされそうになった登場人物たちの抑圧が解放されて、その結果、事実とは異なる殺人、となれば殺人事件に全てが凝縮されてきたと思うのですが、なんだかあっさりしすぎていて、え?これが真相?って思ってしまいました。あと、最後の部分で、「愛」のためにいくら何でもそんなことするかなあって思ってしまいました。

どうしても「告白」と比べてしまうといろいろ書きたくなってしまうのですが、読みやすいことは間違いありません。ページを繰る手が止められない、というのはやはり作品がいい証なのでしょうね。このブログに載せた他の本と比べても、相当に速いスピードで読み終えました。

 勝手ながらこの人の文章形式が活きるのはどんな話だろう、と思っていたのですが、やはり一つの事件を多面的側面から独白形式で語ることでその本質を露にしていく、というスタイルがいいのはまちがいないですね。
 似たような形式の作品は宮部みゆきさんも書かれていました。(多少、書き方は異なりますが)やはり物語のとしての仕上げ方は宮部みゆきさんの方が上ですね。読みやすさでは余計な文がほとんどない湊かなえさんの方が読みやすいですが。あとは登場人物の心の「すれ違い」ですね。これが湊かなえさんの作品の一番恐ろしいところだと思うのですが、ここは少し本作では抑え気味の傾向がありますね。逆にこの「すれ違い」を前面に押し出してもいいとは思うのですが・・・。男女の関係とミステリー、双方の観点での「すれ違い」を書いたらきっととてつもなく恐ろしい作品が出来そうな気がします。

さて湊かなえさんの作品はもう「夜行観覧車」が発売されていますね。次はどんな話を読ませてくれるのか、今から楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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posted by taka at 20:51| Comment(0) | TrackBack(2) | 湊かなえ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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『Nのために』湊かなえ
Excerpt:  その人のためなら自分を犠牲にしてもかまわない。その人のためならどんな嘘でもつける。その人のためなら何でもできる。その人のためなら殺人者にもなれる。  みんな一番大切な人のことだけを考えた。一番大切..
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