2010年03月28日

読書日記193:楽園(下) by宮部みゆき



タイトル:楽園 下
作者:宮部みゆき
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
16年前、土井崎夫妻はなぜ娘を手にかけねばならなかったのか。等はなぜその光景を、絵に残したのか?滋子は二組の親子の愛と憎、鎮魂の情をたぐっていく。その果てに辿り着いた、驚愕の結末。それは人が求めた「楽園」だったのだろうかー。


感想--------------------------------------------------
 前回に続いて宮部みゆきさんの「楽園」です。上巻が荻谷敏子と等の話だとすると、下巻は土井崎家の話ですね。土井崎夫妻と娘の茜に誠子。なぜ土井崎夫妻は茜を殺さなければならなかったのか?主人公のルポライター、前畑滋子は様々な人物と接触を繰り返しながら次第に真実を明らかにしていきます。

 上巻がわりとゆっくりとした展開であるのに対して、下巻は次第に物語が速度を増していきます。物語の鍵を握る土井崎夫妻と誠子との会談、そしてさらに隠された真実と、衝撃の展開、次第に明らかになる断章の位置付けとタイトルである「楽園」の意味ー。この終盤へ向けてと物語を収束させていくうまさはさすが宮部みゆきさんだな、と思います。様々なヒット作を誕生させている作家さんだけのことはありますね。

 本書、上巻が「過去と向き合う」ということがテーマだとすると、下巻のテーマは「家族」とでも言えるでしょうか。荻谷家と土井崎家、さらに前畑家。それぞれの苦しみや愛情が細やかに描かれています。こういった登場人物一人一人の心情を表現するのは宮部みゆきさんは抜群に上手いですね。精緻な描写と重なり合って、人物が本当に深く描かれていると思います。
 また主人公、前畑滋子の視点があくまで温かいため、その雰囲気が物語全体を寂し気ではありますが、どことなく温かい雰囲気にしています。息子を亡くした敏子、娘を手にかけざるを得なかった土井崎夫妻と、ともすると物語全体が暗く沈みがちなのですが、そこを滋子の温厚な性格と、誠子や誠子の幼なじみ、秋津刑事などの明るさでうまくカバーしている、という印象ですね。寂しさや死者への鎮魂の雰囲気こそ感じられますが、悲惨さは感じられません。このさじ加減も絶妙です。

 本書の中で特に印象に残った言葉があります。それは滋子の調査に協力する野本刑事が「いい思いをしなきゃ損だ」というバブル時代の人生観を振り返って言う次の言葉です。

「それって、今もたいして変わっていないんじゃないでしょうか。ただ"いい思い"が"充実した人生"とか"自己実現"とか、きれいな言葉に置き換わっただけで」

 ・・・物語の根幹とは直接関係のない言葉ですが、私はこの言葉が非常に印象に残りました。なんというか、心に刺さる言葉ですね。充実した人生を送りたい。自己を実現したい。確かにとてもキレイな言葉ですが、裏を返せば、いい思いをしたい、他人より目立ちたい、という言葉に置き換えることができます。気にせずによく使ってしまう言葉ですが、なるほど確かにその通りだな、とはっとさせられると同時に、結局私たちはいつの時代もいい思いをしてラクをしたいだけなんだ、って気付かされました。それと同時に宮部みゆきさんは物事をシビアに見るなあ、って思ってしまいました。

 本作、後半のクライマックスまでの展開は実に見事です。特に最後の数十ページは眼を離せませんでした。最後の最後は少しうまくまとめすぎかな、って思う部分もありましたが・・・。でも十分に楽しませてくれる本でした。お勧めですね。

 また余談になりますが、私は昔、宮部みゆきさんの本を読んで読書にのめり込んでいった記憶があります。「パーフェクト・ブルー」、「レベル7(セブン)」、「火車」、「理由」・・・。数え上げればきりがありませんね。どれも名作で、時に軽快に、時に緻密にと物語を自由自在に操るその腕前はまさに脱帽ものです。私の中では東野圭吾さんとならぶ随一のミステリ作家さんですね。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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「楽園」
Excerpt: 宮部みゆき「楽園」文藝春秋 あの「模倣犯」に出ていたライター前畑滋子のその後。い
Weblog: スローな読書ライフ
Tracked: 2011-05-12 21:38