読書日記187:SOSの猿 by伊坂幸太郎



タイトル:SOSの猿
作者:伊坂幸太郎
出版元:中央公論新社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ひきこもりの青年の「悪魔祓い」を依頼された男と、一瞬にして300億円を損失した株誤発注事故の原因を調査する男。そして、斉天大聖・孫悟空ーー。物語は、彼らがつくる。伊坂幸太郎最新長編小説。


感想--------------------------------------------------
 伊坂幸太郎さんの最新作です。本作は読売新聞に連載されていた作品で、漫画家:五十嵐大介さんと共同で構想した世界観に基づいてそれぞれに作り上げた作品の一つになります。五十嵐大介さんは「SARU」という本作と対になる作品を描かれていますね。

 本作「私の話」と「猿の話」という二つの話が交互に展開されていきます。「私の話」では遠藤二郎という男がひきこもりの青年の「悪魔祓い」を引き受けるところからスタートし、「猿の話」では株の大量誤発注の原因を調べる男:五十嵐真の視点で物語が進んで行きます。そして話が展開するに連れて微妙に交錯する二つの話と、時折見え隠れするご存知西遊記の主人公:孫悟空。物語がどこに向かうのか?どのような結末を迎えるのか?読んでいても全く想像がつきませんでした。

 本作には伊坂幸太郎さんらしいエッセンスがたくさん詰まっていますね。株の誤発注は何が原因なのか?悪いのは誰なのか?その原因を探ってもさらに新しい原因に突き当たり、結局何が悪いのか、なかなか判断がつきません。こういった点は「モダンタイムス」によく似ていると感じました。全てが複雑に絡み合い、全てに善悪の両面があるため「本当に悪いもの」がなかなか判別できない現代に対して、西遊記の世界では正しいのは三蔵法師や孫悟空で悪いのは妖怪たちとはっきりしています。ここらへんもうまく対比として使っているのかな、と感じました。

 あと構成の巧みさもやはり伊坂幸太郎さんですね。二つの話がどこでつながるのかと思いきや、三分の二を過ぎた当たりでうまく話が繋がり、「ああ、なるほどこういうことか」と納得させられます。ここら辺の上手さはさすが伊坂幸太郎さんです。

 ただ本作はどうも私は読み終えてもすっきりとはしませんでした。
 エクソシストや西遊記、システムのバグ問題やフロイト・ユングの心理学にまで踏み込んで様々な論を展開している一方で、そのどれもが中途半端というか、不完全燃焼な気がします。結末を迎えて物語を読み終えたときの印象も「で、それでどうなの?」と言った感じです。途中色々な謎や疑問は残されたままなんか結末だけポン、と与えられた感じです。新聞連載という枠組みの中だからなのでしょうか?本当に全部語ればはっきりすると思うのですが、いろいろと省略されている感じです。本作は300ページ程度の作品ですが、きっと本作で扱われている全ての要素に付いて語り尽くすには、本当はこの倍くらいはページ数が必要なのでは?と思いました。また、「SARU」を読めばいろいろと分かる部分もあるのかもしれませんね。

 モダンタイムズといい本作といい、伊坂幸太郎さんはなんかだいぶ難しいテーマに最近は取り組まれているような気がします。そしてどうもなかなか私はそのテーマについて行け無くなっている気もします。私なんかはどうしても本を読むとその本のテーマやメッセージについてばかり考えてしまいますが、本作中でも言っているようにそういうことに囚われること無く大きな目線でものごとを捉えて読むといいのかもしれませんね。
 伊坂幸太郎さんは次はどんな作品を出すのでしょうか?個人的には「重力ピエロ」や「死神の精度」、「砂漠」などが好きなので、ああいうテイストの作品が出てくれると嬉しいですが・・・次回作も楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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伊坂幸太郎「SOSの猿」
Excerpt: SOSの猿伊坂幸太郎「SOSの猿」2009年刊 誰かのSOSの声が聴こえるけれど、  助けることができない・・非力な私 こういう立場が、自分が当事者であるよりも苦しい。 下手な感受性などないほうが楽だ..
Weblog: システムエンジニアの晴耕雨読
Tracked: 2010-03-14 22:05