読書日記157:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない by桜庭一樹



タイトル:砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない A Lollypop or A Bullet
作者:桜庭 一樹
出版元:角川グループパブリッシング
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「好きって 絶望だよね」
子供はみんな兵士で、この世は生き残りゲームで。
砂糖菓子の弾丸で世界と戦おうとした少女たち・・・・・・。
稀世の物語作家・桜庭一樹の原点となる青春暗黒小説。

感想--------------------------------------------------
 「私の男」で直木賞を受賞した桜庭一樹さんの作品です。本作は桜庭一樹さんの初期の作品だそうですね。桜庭一樹さんの経歴を見ると、本作が大きく評価されてブレイクしたらしいので、非常に期待して読みました。

奇妙な転校生:海野藻屑。その奇妙な振る舞いに振り回される山田なぎさは、藻屑の奇妙な行動の裏側にある彼女の背負う物の大きさに気付きー

 読んでの感想ですが、非常に鮮烈な作品です。
 本作まずその奇妙なタイトルに引きつけられました。「砂糖菓子の弾丸」。なんのこっちゃ?と読む前は誰しもが思うのではないでしょうか。
 本作の中で弾丸=実弾とは生きて行く為に必要なものごとを指しています。それは働くことであり、お金を稼ぐことでもあります。主人公の山田なぎさは一日も早くその"実弾"を打てるようになりたい、大人になりたい、と願っています。
 一方で海野藻屑は生きるのに必要ではないこと=砂糖菓子ばかりばらまきます。それは嘘であり、作り話であり、汚染であり・・・。そしてそんな藻屑になぎさは"べたべたに"されていきます。

 早く実弾をこめて現実と戦えるようになりたい、と願うなぎさと、現実から逃げる為に砂糖菓子をばらまき続ける藻屑。この二人はとても対照的です。(・・・名前も対照的ですよね。)そして物語はクライマックスに向けて集約されて行きます。

 虚や作り話では現実とは戦うことが出来ない・・・本作のタイトル「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」の意味はおそらくこういう意味かと思います。現実と戦う為にはその為の力を手に入れるしかありません。そしてそれはまだ少女であるなぎさと藻屑にはとても難しいことですね。

 また一方で、砂糖菓子の弾丸を撃つことができるのは女性に取っては人生の中のほんの一瞬、「少女」である時期だけです。その「少女」という、大人になってしまったら絶対に手に入れることの出来ない存在への、作者の羨望に似た感情さえも感じさせます。
 少女から女性へと移り行く中で現実と戦う為に手に入れるもの、そして二度と手にすることの出来ない失われたもの。そういった刹那の青春の時期を切り取った作品のように感じました。本当に鮮烈な作品です。
 本作のような作品を読むと、本当に作者の凄さが伝わってきますね。デビュー初期にこんな作品を作るなんて本当にこの人は天才かもしれん、なんて思いながら読んでしまいました。

 本作、最初の評価はそれほど高くなかったようですね。徐々に売れ始め、最終的にはかなりのヒットになったそうです。傑作である証拠でしょう。過去の作品ほど成熟されていない分、作品のすべてが荒々しくて尖っており、それが読者の心に刺さってきます。「少女には向かない職業」にストーリーは少し似ているかな、と思いましたが。凄い作品だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』について
Excerpt: ――見事に『現実』を描写したライトノベル―― ■「子供の無力感」を描き切ったミステリー 直木賞作家・桜庭一樹が注目されるきっかけとなった 本書・『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』であるが、..
Weblog: 酒井徹の日々改善
Tracked: 2012-03-02 11:07