読書日記156:ジョーカー・ゲーム by柳広司



タイトル:ジョーカー・ゲーム
作者:柳 広司
出版元:角川グループパブリッシング
その他:吉川英治文学新人賞&日本推理作家協会賞W受賞

あらすじ----------------------------------------------
結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスパイ養成学校“D機関”。「スパイとは“見えない存在”であること」「殺人及び自死は最悪の選択肢」。これが、結城が訓練生に叩き込んだ戒律だった。軍隊組織の信条を真っ向から否定する“D機関”の存在は、当然、猛反発を招いた。だが、頭脳明晰、実行力でも群を抜く「魔王」-結城中佐は、魔術師の如き手さばきで諜報戦の成果を挙げ、陸軍内の敵をも出し抜いてゆく。東京、横浜、上海、ロンドンで繰り広げられる最高にスタイリッシュなスパイ・ミステリー。


感想--------------------------------------------------
 柳広司さんの作品です。この方の作品は初めて読みました。柳広司さんは本作で一気に有名になりましたね。本作は吉川英治文学新人賞と日本推理作家協会賞を受賞し、このミスでも非常に高い評価を得ています。

 スパイ養成期間"D機関"。エリート中のエリートで構成されるD機関を一人で立ち上げた「魔王」結城中佐はD機関を駆使して確実に成果をあげていくー。

 本作は「ジョーカー・ゲーム」、「幽霊(ゴースト)」、「ロビンソン」、「魔都」、「XX(ダブル・クロス)」の五つの章から構成されます。それぞれの章でD機関のメンバーが暗躍するわけですが、粗筋のところにも書いてありますがどの章もストーリー仕立てがとてもスタイリッシュです。

 戦前の陸軍内に極秘に創設されたスパイ養成機関"D機関"ー。本作を読む前にこのストーリーを聞いたとき、私は「古くさい」という印象を不覚にも持ってしまいました。「古くさく、権威主義的で固い」。しかしそんな印象は本作を読むといい意味で裏切られました。
 本作、時代設定は確かに戦前なのですが、読んでいると古くささは微塵も感じさせません。そこにいるのは権威主義を真っ向から否定し、「自分の頭で判断することだけが生き延びる道」として徹底的に自分を殺し、高いスキルを駆使して東京で、横浜で、上海で、ロンドンで、暗躍するスタイリッシュなスパイたちの姿です。そして彼らを指揮する「魔王」結城中佐。底の見えない恐ろしさを伴う彼の姿はまさに「魔王」ですね。
 時代設定は古いのですが、文体が新しく非常に読みやすいため、古くささを感じさせないのでしょうね。作者の高い技術が伺われます。

 本作、どの作品も面白かったのですが、その中で一番印象に残ったのはやはり「ジョーカー・ゲーム」でしょうか。ポーカーと思って参加したゲームは、ポーカーとは似ても異なるゲーム「ジョーカー・ゲーム」だったー。スパイ達の底なしの能力、不気味さを感じさせる章でした。本作が最初にあるために、物語全体も引き立っているように思います。

 本作、スパイが主人公であり、「死ぬこと殺すことはスパイにとって最悪の選択肢」と結城中佐が明言するように、戦闘の場面はほとんどありません。ですのでそういうシーンを期待して読むと期待はずれに終わります。でも、高いスキルと頭脳を駆使し、高い自負をもって情報戦を闘い抜くスパイの姿は戦闘シーンなんかなくても十分輝いています。

 本作、250ページ程度の作品ですが、その長さは全く感じさせません。あっという間に読めます。そしてさらに"D機関"の活躍を読みたくなります。
 本作の続編「ダブル・ジョーカー」も刊行されていますね。こちらでは"D機関"に対抗する機関が登場するようですがー。こちらもそのうち読んでみたいです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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ジョーカー・ゲーム
Excerpt: 「魔王」と呼ばれる結城中佐の発案で陸軍内に設立されたスバイ養成学校「D機関」。“化け物”“人でなし”と称するに値する、荒唐無稽な試験を乗り越えスパイとして育成されていく者。「俺以外にこの試験をパスする..
Weblog: ◆小耳書房◆
Tracked: 2009-10-19 00:29