読書日記155:廃墟建築士 by三崎亜記



タイトル:廃墟建築士
作者:三崎亜記
出版元:集英社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
●廃墟に魅せられ、廃墟建築士として生きてきた私。この国の廃墟文化の向上に努めてきたが、ある日「偽装廃墟」が問題になり…「廃墟建築士」●巷でおこる事件は七階で起こることが多いため、七階を撤去しようという決議が市議会で出された。マンションの七階に住む僕は、同僚の並川さんに誘われて反対運動に参加することになったが…「七階闘争」●会社から派遣されて、図書館でしばらく働くことになった私。本が“野性”に戻った姿を皆に見せるのが今回の業務だった。上手くいったかに見えたが、思わぬ事態が起こり…「図書館」●蔵も蔵守も待ち続けていた。自分たちの仕事を引き継ぐ後継者がいつかやってくることを。いつか現れるだろう略奪者との戦いを。…「蔵守」
ちょっと不思議な建物で起こる、ちょっと奇妙な事件たち。三崎ワールドの魅力あふれる最新作品集。



感想--------------------------------------------------
 少し不思議な世界を描く三崎亜記さんの作品です。「となり町戦争」で有名な作家さんですね。本作は「七階闘争」、「廃墟建築士」、「図書館」、「蔵守」の四作品から構成される中編集(?)です。

 三崎亜記さんのテイストは健在ですね。市内から「七階」を撤去しようとする市役所と闘う人々を描いた「七階闘争」、癒しの空間である「廃墟」を建築する人々を描いた「廃墟建築士」、地に繋ぎ止められた「図書館」が野生の姿を取り戻す時を描いた「図書館」、そしてただひたすら「略奪者」が現れるその時を待つ蔵と蔵守を描いた「蔵守」。どれも不思議な世界を描きつつも懸命に生きる人間の姿をも描いています。

 それぞれの物語は何を描いているのでしょうか?これを想像するのも三崎亜紀さんの物語を読む楽しみの一つです。
 「七階闘争」ではわからないことが分かりつつも問いを続けることの大切さを、「廃墟建築士」ではただひたすらに一つのことに打ち込むことの大切さを、「図書館」では人知を超えた自然の恐ろしさを、「蔵守」では時代を超えて次の世代に受け継がれて行くことの大切さを、それぞれ描いているように見えました。
 一見、不思議な世界を描いているように見えつつも、現実世界と同じ感覚が共有されているところが三崎亜紀さんの小説の面白いところだと思います。

 現実を超えた現象をうまく使うことで、逆に現実で感じる感情をより深く描くことに成功しているなあ、と思いました。
 ・・・個人的には、「これはなんなんだ?」っていう、何の比喩なのか分からないほど不思議な世界を描いてみてほしいなあ、という気がします。比喩や例えではなく、純然たる「不思議」を描き、そこを起点に人間の織りなす感情なんて描かれたら凄いだろうなあ、って思いました。

 個人的には本作では「図書館」が印象に残りました。夜になると野生を取り戻す、っていうのは「ナイト ミュージアム」みたいですね。新作「刻まれない明日」も図書館で予約してますので、近々読んでみる予定です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


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この記事へのコメント

  • 日月

    TBありがとうございました。

    >現実世界と同じ感覚が共有されている

    日常とかけ離れた世界ではあるのですが、人の持つ思いというのはこちら側と変わらないんですよね。
    私もそう思います。「図書館」を読んでから図書館の閉架書庫が怖くてしかたありません。ちょっとのぞくと動いていそう。ありえないけれどもしかしたら…って思ってしまうのも三崎ワールドの魅力かもしれませんね。
    2009年09月27日 23:23
  • taka

    日月さん、コメントありがとうございました。レス遅くなりすいません。

    >日常とかけ離れた世界ではあるのですが、人の持つ思いというのはこちら側と変わらないんですよね。

    そうそう、まさにその感覚なんですよね、三崎亜記さんの感覚は。「鼓笛隊の襲来」や「バスジャック」、「失われた街」でもそうでしたけど、異なる世界のような出来事を書いているのに、現実世界のように感じてしまうため、感情移入してしまいます。

    どうもありがとうございました。ちょこちょこ更新していますので、またぜひいらして下さい。
    2009年09月30日 20:51

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