コミック日記31:バガボンド by井上雄彦



タイトル:バガボンド(31)
作者:井上 雄彦 (著), 吉川 英治 (原著)
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
取り戻せない過去、まだ見えない未来。

母を背負い、故郷を目指す又八。
嘘にまみれた自分を受け入れてくれた母との 別れが、又八に訪れる。

もう一度だけ、命のやりとりをー。
答えを求め、再び柳生へと向かう武蔵。
そしてその道で、武蔵は意外な人物と巡り合う!


感想--------------------------------------------------
 巨匠:吉川英治さんの不朽の名作「宮本武蔵」を「スラムダンク」で有名な井上雄彦さんが漫画化した作品です。数年前に大河ドラマで宮本武蔵を扱っていましたが、その際にも話題に取り上げられていました。題名の「バガボンド(vagabond)」とは英語で"放浪者"、"漂泊者"という意味だそうです。「天下無双とは何か?」その問いかけを胸に放浪する武蔵にピッタリの題名かと思います。

 吉岡一門との凄絶な死闘を生き伸び、「天下無双とはただの言葉だ」と理解した武蔵。一方、又八には母との別れが訪れるー。

 本作を読んでいてつくづく思うのですが、本作に出てくる各キャラクターの存在感が凄いです。漫画の中のキャラクターという枠を超えて、読み手に血と肉と骨を感じさせます。死闘の場面では血の匂いが漂い、骨の軋む音が聞こえ、肉体同士がぶつかる音まで聞こえてきそうです。

 これは一重に井上雄彦さんの画力によるものですね。墨を思わせる筆遣いで描かれた絵は、時に激しく圧倒的な存在感を醸し出し、時に柔らかで艶やかな絵をも描き出します。風を思わせる軽やかな小次郎に対し、巌のような無骨さの固まりである武蔵。この描き分け方も凄いです。
 余計な描写が可能な限り排除された一コマ一コマの中に圧倒的な存在感を持って存在する武蔵。物語初期の頃はここまでの存在感はなかったですね。宝蔵院、柳生、宍戸梅軒、吉岡と強者達との邂逅を経てその雰囲気は静かに落ち着きつつも、その存在感は増してきています。

 本作、既存の漫画の枠は大きく超えています。漫画で表現できることの限界に挑んでいるかのようにさえ感じます。宮本武蔵という一人の人間の生き様を丁寧にかつ大胆に生き生きと描き出している本作は、私は未読なのですが原作である「宮本武蔵」の世界をうまく表現しているのではないでしょうか?

 小説には小説の、漫画には漫画の良い点があります。小説でなければ表現できないこと、漫画でなければ表現できないことがそれぞれあるかと思います。本作は漫画というジャンルの中でその可能性を存分に生かして、宮本武蔵という男の生き様を丁寧に描いた漫画界の最高傑作の一つかと思います。

 本巻は武蔵と同郷の又八の巻ですね。婆との会話を通して自分の弱さを見つめ直す又八。「武蔵みたいにまっすぐ生きられなくても、あっちこっちにぶつかった分、誰よりも広い道がお前の後ろにはできていいるじゃないか」と諭す婆の言葉には感動しました。又八の嘘も弱さも受け入れて静かに逝った婆。これで本当に又八は救われましたね。
 次巻は伊藤一刀斉と武蔵の絡みがメインでしょうか。楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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