読書日記154:ウェブ進化論 by梅田 望夫



タイトル:ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
作者:梅田 望夫
出版元:筑摩書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
インターネットが登場して10年。いま、IT関連コストの劇的な低下=「チープ革命」と検索技術の革新により、ネット社会が地殻変動を起こし、リアル世界との関係にも大きな変化が生じている。ネット参加者の急増とグーグルが牽引する検索技術の進化は、旧来の権威をつきくずし、「知」の秩序を再編成しつつある。そして、ネット上にたまった富の再分配による全く新しい経済圏も生まれてきている。このウェブ時代をどう生きるか。ブログ、ロングテール、Web2.0などの新現象を読み解きながら、大変化の本質をとらえ、変化に創造的・積極的に対処する知恵を説く、待望の書。



感想--------------------------------------------------
 2006年に発売された非常に有名な本です。シリコンバレー在住の作者:梅田望夫さんがシリコンバレーの近況、グーグルとマイクロソフト、ヤフー、楽天のビジネススタイルの違いやウェブの仕組みを変えたオープンソースの話などを通して、web社会の近況、将来について熱く語った本です。「web2.0」という言葉を広めた本としても有名です。

 本書の中で作者は次の十年の三大潮流である、「インターネット」、「チープ革命」、「オープンソース」とネット世界の三大法則「神の視点」、「ネット経済圏」、「0×無限大=Something」で発展するwebの世界は、リアルの世界では考えられないような発展を遂げる、と書いています。

 「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んで行く為の技術や開発姿勢」。作者はweb2.0の本質をそう定義しています。例えば本ブログを提供しているSEESAAやAMAZONなどはこのweb2.0に該当するのでしょう。
 急激な発展を遂げるハード/ソフトの基盤を元に形成された無限とも言えるwebの世界では誰もが平等で、誰にも等しくチャンスが与えられ、リアルな世界とは全く別個の経済圏が形成されます。そして、これまでのメディアでは一方的な情報の受け手だった人々の誰もが、その意思さえあれば表現者になることができます。
 言うまでもなく私自身もこの恩恵にあずかっています。しかし私自身、10年前にはこんなブログを書いているとは考えてもいませんでしたね。

 本書ではさらに、休眠商品であるロングテイル商品を掘り起こしたAmazonの事例や、不特定多数の集団に知的活動の「種」を投げると自動的にその周りに優秀な技術が集まる仕組みをLinuxの事例を用いて説明したり、不特定多数の人々によって編集される辞典:Wikipediaについて説明したりしています。「不特定多数の人間の導きだす解答は、非常に優秀な個人の導きだす解をも時として上回る」ということが成り立つweb世界は、いやはや凄いですね。

 本書、IT業界で働く者の端くれとして、私も非常に興味深く読ませていただきました(もっと早く読んどけよ、って感じですが)。そして、本当に凄いところは、実際のweb世界は本書の予想を超えるスピードで発展し続けていることです。本書は2006年の発刊ですが、本書の中では、「将来的にも難しいかもしれない」と言われているマルチメディアを検索する仕組みがYouTubeやニコニコ動画で作成されてきていまし、GoogleEarthを超える(?)GoogleStreetviewも始まっています。そして、これらの技術は全て無料でユーザーに提供されています。
 これまでは実感が湧かなかったですけど、我々は本当に凄い世界に生きていますね。書いていて少しずつ実感が湧いてきました。

 webの世界がこれだけ盛り上がっている一方で、現実世界は非常に苦しい状況です。経済は依然としてどん底の状況が続き、失業率はついに過去最悪の5.7%を超え、毎年3万人を超える自殺者が出ています。いったいいつ明るい兆しは見えるのでしょうね・・・。鳩山さんに期待、といったところです。

 先進技術が次々と開発され民主主義が貫かれ、物理的制約なしに自分の嗜好に対応した多くの情報を手に入れることができ、瞬時に多くの人と情報の共有もできる、パラダイスのようなweb世界と不況に喘ぐどん底の現実世界。どちらが魅力的な世界かはもはや言うまでもありません。
 現在は、ネトゲなどにはまってネットの世界にはまってこちらに帰って来れなくなった人を「ネット難民」と呼んだりして、悪いこととして扱っています。
 でも現実世界にこれだけ魅力が無いと、自発的にネットの世界に行ったきり帰ってこなくなる人も出るのではないかと思います。現実世界は肉体を維持するだけに使い、生産/知的/趣味的な活動は全てネットの世界で行うー。ここでよく思い出すのが映画「マトリックス」ですね。脳をコンピューターに直結する技術はまだ開発されないかもしれませんが、それ以外は現実に十分起こりうるかと思います。

 政府が無償支給する栄養チューブを身体につないで生命を維持し、誰もがネットの世界で生活する世界。自分のバイタルや健康状態さえもネットで管理する「マトリックス」や「攻殻機動隊」のような世界は、案外すぐに現れるのかもしれません。セカンドライフなどはその前兆と言えるでしょう。もはやネットの無い生活などありえないですね。

 失業率5.7%と書きましたが、現在の学歴偏重の社会の中では真に優秀な人も職を失っている可能性があります。そういった人の何%かがネットの世界に流れ、ますますネットの技術は進化して行くのでしょうね。進化するネット世界と停滞する現実世界。そんなことを考えた本でした。
 
 
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

『ウェブ進化論』
Excerpt: 梅田望夫 『ウェブ進化論』(ちくま新書)、読了。 今更ながらではありましたが、大ヒット新書でございます。 最初の数ページで、Googleの...
Weblog: 観・読・聴・験 備忘録
Tracked: 2009-09-21 11:26