読書日記153:利休にたずねよ
タイトル:利休にたずねよ
作者:山本兼一
出版元:PHP研究所
その他:第140回直木賞受賞
あらすじ----------------------------------------------
飛び抜けた美的センスを持ち、刀の抜き身のごとき鋭さを感じさせる若者が恋に落ちた。
堺の魚屋の息子・千与四郎ー。後に茶の湯を大成した男・千利休である。
女のものと思われる緑釉の香合を
肌身離さず持つ利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、
気に入られ、天下一の茶頭に昇り詰めていく。利休は一茶人にとどまらず、
秀吉の参謀としてその力を如何なく発揮。秀吉の天下取りを強力に後押しした。
しかし、その鋭さゆえに、やがて対立。
秀吉に嫌われ、切腹を命ぜられるー
感想--------------------------------------------------
山本兼一さんの直木賞受賞作品です。初めて読む方の作品ですね。
美しき物を追い求めることにかけての熱情の激しきことは及ぶ者のいない男、千利休。その艶やかな詫び茶の根底には美しき女人の影が見え隠れする。香合に隠された秘密とはー。
本作、利休が秀吉から切腹を命じられた場面から始まります。そして章を追う毎に少しずつ過去へ遡りながら視点を変えて、利休の人となり、利休とその周囲の人間の関係を露にしていきます。
秀吉や利休の妻:宗恩などから語られる利休の姿は、表面上は冷静ですが美しき者へ対する熱情は人一倍の男です。美しき者を手に入れるためなら平気で他の物を犠牲にするー。そんな利休の姿はとても人間らしく、貪欲です。
その利休の美への執念の源となっているある女性ー。この女性が本作では大きなポイントなのですが、その見せ方がとてもうまいです。もう故人となってしまっているその女性の正体とはー?その女性の謎に引き込まれてページを繰る手が止められません。
もうひとつ素晴らしいと感じたのは本作における茶の席の描き方です。
本作、20を超える章から構成されるのですが、そのほとんどの章で茶の席が描かれています。利休の自宅の茶室や黄金の茶室、野点の風景など、その場面や使用される道具は異なるのですがどの描写も非常に美しく趣があります。
20を超える章で茶の席が描かれていれば、普通はどこかで飽きを感じてしまうのでしょうが、本作ではそういうことがまるでありません。それぞれの章で描かれている茶の席はそれぞれがそれぞれの個性、色、味を持って描かれています。この描写力は並大抵なことではありませんね・・・。凄いです。
さらに、これだけ時代考証のされた作品を作るための事前調査も相当大変だったでしょうね。茶器や釜、当時の建築物や衣装、食べ物、お菓子など、詳細に調べた上で、現在の人にも分かりやすい描写で描いています。本当に当時の様子が目に浮かぶようです。
気品のある文体で描かれた重厚であり艶やかな作品。まさに利休の生き方のような作品ですね。直木賞受賞も納得の一冊でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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