タイトル:片眼の猿-One-eyed monkeys
作者:道尾 秀介
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
盗聴専門の探偵、それが俺の職業だ。目下の仕事は産業スパイを洗い出すこと。楽器メーカーからの依頼でライバル社の調査を続けるうちに、冬絵の存在を知った。同業者だった彼女をスカウトし、チームプレイで核心に迫ろうとしていた矢先に殺人事件が起きる。俺たちは否応なしに、その渦中に巻き込まれていった。謎、そして・・・。ソウルと技巧が絶妙なハーモニーを奏でる長編ミステリ。
感想--------------------------------------------------
「向日葵の咲かない夏」で紹介した道尾秀介さんの作品です。
盗聴専門の探偵:三梨は他の人にはない能力で盗聴を行っている。自分と同じように特殊な眼を持つ冬絵と出会い・・・。
本作、ミステリですが、いわゆる"ミスディレクションもの"です。"ミスディレクションもの"というと、「葉桜の季節に君を想うということ」が有名ですね。序盤では語られない隠された設定があり、それが物語の後半になって分かる、というお話です。
少し読むと主人公:三梨の耳が普通ではない、ということが分かります。尋常ではない聴力を示す三梨。その聴力の秘密はその耳にありそうですが、その謎は秘められたまま物語は進みます。冬絵の眼についても同様ですね。最後になって物語の全貌、登場人物の正体が分かり、読み手は驚愕することになります。
ミスディレクションの設定は非常に巧みです。全貌が分かったときに改めてその設定の素晴らしさに驚きます。また登場人物も個性的ですね。話し方が変な野原のじいさん、トランプを扱うトウヘイ、双子のマイミとトウミ。奇妙な彼らが物語にアクセントを与えているとも思います。特にトウヘイのトランプ予言はひねりがきいていますね。
本作、確かにミスディレクションやトランプ予言、そして「片眼の猿」が示す本当の意味などはよくできているなあと思います。しかしこのような小技が効いている一方で、物語の芯の部分が軽い気がします。ミスディレクションも見事なのですが、その設定に矛盾が生じないように物語の構成に制限が出てしまい、窮屈な印象も受けます。また物語の根幹が何なのか、殺人事件なのか、冬絵の正体なのか、秋絵の死の真相なのか定まらないため、ふらふらしている印象があります。殺人の真相も「これで終わり?」という感じです。
またキャラクターも個性的な面子が多いのですが、その裏返しとしてキャラクターが浮きすぎていて、現実離れした物語になってしまっているという印象もあります。本作品の主要なメッセージである「本質は見た目ではない、自尊心を持って生きろ」というメッセージもいまいち軽く感じてしまいます。
「向日葵の咲かない夏」もそうですが、この方の作品は小技のところばかり生きていて、物語の本筋がいまいち?と感じることが多いですね。本質が生きていないとミステリとしての印象は薄く記憶には残りません。他の作品はどうでしょうか?本作、非常に読みやすかったので他の作品もまた読んでみたいと思います。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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