読書日記143:風が強く吹いている by三浦しをん



タイトル:風が強く吹いている
作者:三浦しをん
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。


感想--------------------------------------------------
 前回紹介した「格闘する者に○」の作者、三浦しをんさんの作品です。本作、いろいろな方からの評判を見たところ、どの方も絶賛されていましたので期待して読んだのですが、期待を裏切らない、それどころか期待以上の作品でした。

 青竹荘に住む十人は無謀にも箱根駅伝に挑む。期間は半年、人数は十人。奇跡は起きるのか?

 本作、箱根を目指す十人を描いた純粋な青春小説です。読む前までは「青春小説」という名前自体に少し「どうなの?」といった印象を持っていたのですが、そんなもの吹き飛ばす面白さでした。
 まず、登場人物が皆、とても生き生きとしています。暴力事件を起こして陸上を断念した天才ランナー走(かける)、同じく怪我で陸上を断念したハイジ。この二人を中心に漫画好きの王子、黒人留学生:ムサ、双子のジョージとジョータ、サポート役の八百勝の娘:葉菜子などなど、どれも個性的なメンバーです。彼らが時に反発し合い、次第にお互いを理解し合って協力し合う姿の描き方がとても生き生きとしていて、若者らしくて、ああ青春だなあ、って思ってしまいます。

 そして本作で最も凄いと感じたのは「走る」ということの描き方です。特に主人公:走の描写は素晴らしいです。全身を一つの高性能マシンと化して、弾丸のように走り抜けていく走の描写、そして全身を巡る血液の奔流の感触、空気を切り裂きながら駆け抜けていく自分の身体の感触、そういったものを確認しながら走る走の内面描写、それら「走る」ということに関する表現がとにかく凄いです。読み手も走につられて走り出したくなるような、走ることが好きになるような素晴らしい表現力です。

 ストーリー自体は確かにべたべたな青春ストーリーだと思います。「半年で箱根を目指す!」というのも、真剣に陸上をやっている人からすれば「寝言か?」と思われてしまうかもしれません。でも「走る」ということに対してとにかく真摯に取り組む登場人物達の描写が素晴らしくて、途中からはあまり気にもならなくなりました。何か一つのことに対して真摯に真剣に取り組んでいる人の姿は、例えそれが小説の中の登場人物であっても、やはり人の心を打ちますね。作者の三浦しをんさんも、かなり陸上関係者に取材して、そういう人たちの声を集めたからこそ、これだけの作品ができたのだと思います。

 こういう作品を読むと、言葉や文章を通じて人に感動を与えることができる「小説」というものの素晴らしさを改めて実感しますね・・・・。私は図書館で借りて読んだのですが、文庫を買い直そうかと思いました。最近読んだ中では傑作と呼べる一作でした。
 



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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Tracked: 2010-12-29 19:07