タイトル:荒野
作者:桜庭一樹
出版元:文藝春秋
その他:
あらすじ----------------------------------------------
恋愛小説家の父をもつ山野内荒野。ようやく恋のしっぽをつかまえた。人がやってきては去っていき、またやってくる鎌倉の家。うつろい行く季節の中で、少女は大人になっていく。
感想--------------------------------------------------
「私の男
恋愛小説家の父親を持つ山野内荒野。人の入れ替わりが激しい鎌倉の家で暮らす荒野は、少しずつ少女から大人の女になっていくー。
本作、一人の少女:山野内荒野の話です。中学に入学したての12歳から始まり、16歳の高校一年生までの話になります。まだまだ子供であり恋や異性への興味さえない12歳の荒野は二人の友人と友情を育みながら、徐々に大人へとなっていきます。親代わりの家政婦さんが去り、新しいお義母さんがやってきて、その子供が現れ、と人の入れ替わりの激しい鎌倉の屋敷で多感な少女期を過ごす荒野の姿は、健全な少女そのものです。
年を経るにつれて「変わりたくない」と思いながらも徐々に大人に、大人の女になっていく荒野。そして荒野だけでなく、その周りの友達や恋人も少しずつ大人になっていきます。その方向性は様々なのですが、この成長の過程の描き方が実に見事です。綿密なだけでなく、表情豊かで優しさに満ちていて、それで少しユーモアも感じさせます。
桜庭一樹さんの作品を読むといつも思うのですが、この方は「少女」、「女」の描き方が非常に上手ですね。特に驚いたのは、多感な青春期の少女/女の心情をとても精密に表情豊かに描いていることです。大人の女性でこれだけ少女の頃の感情を理解でき、文章として表現できるというのは素晴らしいことだと思いました。(大人になってしまうと、子供の頃の感情は忘れてしまうのが普通だと思います・・・。)
清廉で潔白な少女時代の荒野は少し変わった家で様々な大人の女性と接しながら、それでも健全に大人の女へと成長していきます。最初は「ただいま」と家に帰って、家にいる女性に「お帰り」と迎えられるだけだった荒野が、最後には「お帰り」と迎え上げるところや、最初は接触恐怖症で他人に触れることができなかった荒野が義母の影響で他人と触れ合うことができるようになっていくところなど特に印象的ですね。
本作はある意味とても「真っ当」な少女から女性への成長物語です。逆に言うと、あまりにも真っ当で美しすぎるため、違う世界の話のようにも少し思えてしまいます。次回、桜庭一樹さんにはぜひ、「普通の」少女から女性への成長物語を書いてもらいたいな、と思いました。
普通の女性の成長物語なんてつまらないかもしれませんが、青春期という人生の中で最も輝いている時期を桜庭一樹さんが描けば、きっと面白い作品になるでしょうし、より一層共感も得られるのではないかと感じました。最新作「ファミリーポートレイト
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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