読書日記103:スプートニクの恋人



タイトル:スプートニクの恋人

作者:村上春樹
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
22歳のすみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ突き進む竜巻のような激しい恋だった。それは行く手のかたちあるものを残らずなぎ倒し、片端から空に巻き上げ、理不尽に引きちぎり、完膚なきまでに叩きつぶした。ーそんなとても奇妙な、この世のものとは思えないラブ・ストーリー!!


感想--------------------------------------------------
巨匠、村上春樹さんの作品です。「ノルウェイの森」、「羊をめぐる冒険」、「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」、「ねじまき鳥クロニクル」などなど言わずと知れた今や世界的に有名な作家さんです。(ネタバレありです。未読の方は注意)

ぼくが恋しているすみれ。そのすみれが恋に落ちたのは17歳年上の人妻:ミュウだったー。

 「スプートニクの恋人」。このタイトル名に使われている「スプートニク」とは、冒頭で紹介されていますがロシアで打ち上げられた世界初の人工衛星のことです。一匹のライカ犬を乗せて帰ることのない旅に出た衛星スプートニク。ミュウと出会った際のちょっとした出来事から、すみれはミュウのことを「スプートニクの恋人」と呼ぶことになります。

 そしてこの「スプートニク」とは恋人達のことも象徴的に表しています。軌道上をぐるぐると永遠の孤独の中で周り続け、たとえ交わることはあっても、お互いに何も与えず、何も奪わず、一瞬の後には分かれて再び永遠の孤独の中に戻っていく数多の衛星:スプートニクの末裔たち。彼らの姿は本作で描いている男女の姿そのものです。

 本作、ある出来事をきっかけとしてすみれが姿を消してしまいます。必死に探しても見つからないすみれ。彼女はいったいどこに行ったのか?なぜ消えたのか?私の感想では、重要なのは、「なぜ消えたのか?」、「どこに消えたのか?」ではなく、「消えた」という事実そのものです。結局すみれは「こちら側」から「あちら側」に行ったのだろう、と結論付けられます。「こちら側」と「あちら側」は人間の二面性を表すような意味で使われているようです。そして、すみれが消えることによって自分自身の世界のあり方が大きく異なってしまった「ぼく」。

 実際にこつ然と人間が消えてしまうことはありませんが、ある人が、ある日を境に「同じ人間なのに全くの別人」になってしまうことによって、「消えて」しまうことは往々にしてよくあります。それは恋人との別れによって、例えば「恋人」が恋人から単なる一人の「女性」になってしまうことがそうですし、人間関係のちょっとした変化によって現実ではとても簡単に生じることです。そして、後には多くの場合、大きな喪失感だけが残されます。

 でも、逆に言えば、この広い世界で二人の男女が出会うことも、別れることも奇跡のようなことなのかもしれません。この広い宇宙でスプートニクの末裔達が出会うのが奇跡であるように。このような人との出会いと別れの経験は誰しも持っている物ですが、その出会いと別れ(それはすみれとの出会いとすみれの消失によってもたらされた別れであり、ミュウとの出会いと別れでもあります。)を本作では非常に詳細に、綿密に、そして美しく描いています。

 そして、最後の4ページ。ここは本当に感動しました。久しぶりに心が震えましたね。ラスト前のフレーズの「そうだね?」「そのとおり」・・・いいですね。自分の周りに居る人たちに、奇跡的に出会えたことを感謝したくなる、極上のラブストーリーです。
 
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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この記事へのコメント

  • 森永洋一

    はじめまして。私は鹿児島県の奄美大島に住む森永洋一と申します。川崎市で読書好きの方を探しておりましたら貴方様のHPがありました。私は4月に小説『あの夏にすべてを賭けて』を全国発売いたしました。2002年サッカーWカップが終わった直後の奄美がメイン舞台で湘南辻堂の大学生が主人公です。後半は辻堂に戻ってきます。主人公達はサッカー好きでサッカーの話題も出てきます。物語自体はサスペンス・タッチの非常に切ない恋愛小説です。図書新聞や鹿児島の新聞で取り上げられ鹿児島・奄美では多少話題になっています。湘南でも好評です。現在、増刷改訂版が出ています。ネット通販でご購入いただけます。川崎市立多摩図書館にもございます。ただし初版本になります。川崎市は湘南に近くまた川崎フロンターレの地元でもありますしご興味を持たれるのではと思いご紹介いたしました。ご一読よろしくお願いいたします。それでは失礼します。奄美より
    2008年12月12日 14:23
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