2016年12月25日

読書日記622:ロードス島攻防記



タイトル:ロードス島攻防記
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
イスラム世界に対してキリスト教世界の最前線に位置するロードス島。コンスタンティノープルを陥落させ、巨大な帝国を形成しつつ西進を目指すオスマン・トルコにとっては、この島は喉元のトゲのような存在だった。1522年、大帝スレイマン一世はついに自ら陣頭指揮を取ってロードス島攻略戦を開始した――。島を守る聖ヨハネ騎士団との五ヶ月にわたる壮烈な攻防を描く歴史絵巻第二弾。

感想--------------------------------------------------
遂に読み終えた「ローマ人の物語」の塩野七生さんの作品です。平成三年発行ですので、二十五年も前の作品になりますね。中世の地中海、ロードス島を拠点にオスマントルコと対決する聖ヨハネ騎士団の活躍を描いた史実的な作品です。

分裂し争いを繰り返す西欧諸国を尻目に、着々と領土拡大をはかり、コンスタンティノープルを落して西へと進むオスマン・トルコ。キリスト教世界の最前線に位置し、オスマントルコの船を襲い続けるロードス島の聖ヨハネ騎士団は、スレイマン一世と激しい戦いを繰り広げるー。

ローマ世界から一点、中世の西欧の物語もやはりこの著者だけあって読み応えがあります。騎士アントニオを主人公とした物語的な描写と史実が混在する描き方は独特ですが、特に物語り部分は迫力がありました。見所は何と言ってもロードス島に築かれた城塞に立てこもる聖ヨハネ騎士団と、物量にものを言わせて襲いかかるオスマントルコの戦闘です。大砲と地雷、それに圧倒的な物量を背景に襲いかかるオスマントルコと、信仰と鋼鉄の鎧、それに鉄壁の城塞を盾に立ちはだかる聖ヨハネ騎士団。その戦闘描写には凄まじいものがあります。この描写は「ローマ人の物語」に通ずるものがありますね。

一方で、本書は突如、中世西欧の話から始まるため、前後関係や世界情勢がよくわからない、といったデメリットもあります。これは、本書の前段となる「コンスタンティノープルの陥落」を読んでおくといいのかもしれません。

ローマ世界もいいですが、中世西欧のキリスト教世界もいいですね。この著者の作品はまた読む予定です。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
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2016年12月18日

読書日記621:フェルドマン博士の 日本経済最新講義



タイトル:フェルドマン博士の 日本経済最新講義
著者:ロバート・アラン フェルドマン
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ゼロから解説。経済がわかればあなたも変わる!ワールドビジネスサテライトの人気コメンテーター、フェルドマン博士による日本経済復活のガイド。

感想--------------------------------------------------
ちきりんさんのブログにて紹介されていた本です。ようやく読むことができました。著者であるフェルドマン博士ことロバート・アラン・フェルドマンさんはモルガン・スタンレーMUFG証券のチーフ・エコノミストの方です。テレビ東京で毎夜放送しているワールド・ビジネス・サテライトにもコメンテーターとしてよく登場していますので、ご存知の方も多いかと思います。本書ではこのフェルドマン博士が日本経済を様々な観点から説明しています。

結論から書いてしまうと、本書は非常に有意義に読める本でした。毎日の新聞に書かれている様々な政治的、経済的動向がどのような意味を持つのか、その中身が本書を読むと良く分かります。新聞の記事が表層的・断片的なのに対し、その中身が分かる本、というイメージでしょうか。さすがちきりんお勧めの本だけのことはあります。

本書の特徴として、著者が簡潔に日本経済、政策を「斬って」いるという点があげられます。完全なる断定口調と明確な○×、点数付け、さらにその根拠の説明により、読み手は迷うことなくすんなりと本書の内容を頭に入れることができます。特に面白いのはアベノミクスの評価をレーダーチャートを使って簡潔に示している点です。アベノミクスの評価をしている新聞、雑誌などは山ほどありますが、農業、医療、エネルギーなどの各項目に対して明確に点数を付けて評価している本書のような本はあまりないのではないかと思います。

詳細な評価はぜひ本書を読んでいただきたいのですが、この本の中で明確に言われているのは、「既得権益層」とその既得権益層を野放しにしてしまう「現行の選挙制度」こそ最もてこいれが必要な箇所、ということです。要するに「金持ちが金持ちに都合のいいように制度を作っている」ということですね。また社会保障にかかる金が多すぎることも明確に言われています。もっと教育やエネルギーなどにもお金をかけるべき、との主張です。これは良く理解できるのですが、実際にどうするのか、高齢者をどのように介護していくのか、問題は多そうだと感じました。

個人的に思うのですが、日本の現実的な将来像やロードマップを適切に描き、国民に共有することができていないため、各政策がばらばらに見えるのだ、とも感じます。人口は減るだろうし、経済成長も劇的に改善されることはありません。薔薇色の未来像に希望を持つことができず、逆にどこか胡散臭く感じてしまう風潮もずっと続いています。各分野の政策を統合しての将来イメージとその共有が必要なんだろうな、と感じました。

本書はアベノミクスを非常に客観的な視点で評価しています。これだけでも私は本書に一読の価値があると感じます。アベノミクスの「三本の矢」とその中身、各政策の状況、問題点。これらが二百ページ程度の本書で理解できるのですからお得というものです。この本の刊行からまだ一年も経っていませんが、その間にも英国のEU離脱など大きなニュースが飛び込んできています。こんどは世界経済についての講義も読んでみたいと感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年12月10日

読書日記620:ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える



タイトル:ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える
作者:ラズロ・ボック (著), 鬼澤 忍 (翻訳), 矢羽野 薫 (翻訳)
出版元:東洋経済新報社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
君は、最強企業が欲しがる人材なのか?未来の新しい働き方のすべて、ベストチームをつくるアドバイス―世界最高の職場を設計した男、グーグルの人事トップが、採用、育成、評価のすべてを書いた。

感想--------------------------------------------------
最近話題のビジネス書です。あのGoogleの人事トップが採用、育成、評価のすべてについて語った本として有名です。全五百ページ以上と読み応えたっぷりです。

本書を読み終えて感じた事は、「これはGoogleだからこそできることだ」というものと、「これだからGoogleたり得ているのだ」というものです。人事、採用、育成、評価について書かれた本、というよりも、GoogleをGoogleたらしめているGoogleの文化について書かれた本、という事ができるかもしれません。もちろん他社も教訓に出来る点は多くあります。しかし「こんなこと他の会社には無理だろ」と思う箇所も多いです。飛び抜けた業績を上げているからこそ出来る点も多いですし、逆にこれだから飛び抜けた業績を上げられているのだ、と思う箇所も多いです。

本書を読んで全般的に感じる事は、Googleという会社は従業員を善なる者として最大限尊重して扱っている、ということです。徹底的な管理を施す会社と無制限の自由を与える会社があったとすると、Googleは限りなく後者に近いです。それで成り立つのは、世界の中でもレベルの高い頭脳を持つ人々が多く集まっている点、採用に凄まじく時間をかけ、間違いのない人を入社させている点などが挙げられると思います。「自分の仕事に意味を求める」。これは誰もがそうですが、そのことをうまく仕事のモチベーションとして昇華させる仕組みを作り、さらに人の持つ「善意」を信頼して限りなく強制を排除しているGoogleの文化は会社としてもコミュニティとしても理想に近いと感じます。

マネージャーが権利を手放しメンバーの自主性を尊重する、マネージャーがメンバーに寄りそう、食事と通勤バスは全て無料、社内に様々なコミュニティが存在、などなどGoogleの特徴は非常に多いです。しかしその多くが「社員を善意を持った個人として尊重する」という点からスタートしている点が素晴らしいと感じます。そのような理想が理想のまま通っている点は奇跡に近いかもしれません。

「社員に満足してもらう」ひょっとしたら人事の究極の目標はこのひと言なのかもしれません。そしてこの目標を達成するためには、「人間はどのようなときに満足するのか?喜ぶのか?」というところや、さらに深く、「人間とはどのようなものか?」まで掘り下げる必要がありそうです。そしてそのような観点から社員を見ると、違った見え方が出来るように感じました。何より私に取っては、たいていの日本企業に存在する「既得権益層」がいないことが素晴らしく感じました。何もしないのに権力を振り回して高い給料をもらう人たち。そのような人たちが自然と淘汰される仕組みが作られているようにも感じました。

人事、育成、採用、評価の本と言うよりも、文化、コミュニティのあり方、作り方について書かれた本と言った方がいいかもしれませんね。私は本書の前半よりもむしろ後半の文化的側面について書かれた章の方が面白く読めました。五百ページ超となかなかの読み応えですが、読んで損はない本です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年12月03日

読書日記619:IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる



タイトル:IBM 奇跡の“ワトソン”プロジェクト: 人工知能はクイズ王の夢をみる
スティーヴン・ベイカー (著), 金山博・武田浩一(日本IBM東京基礎研究所)
出版元:
その他:

あらすじ----------------------------------------------
IBMがその叡智を結集して開発した、自然言語を理解する驚異のスーパーコンピュータ「ワトソン」。今年2月に全米クイズ王を破り優勝するまでの、技術者の激闘1500日を描く「プロジェクトX」流ドキュメント!

感想--------------------------------------------------
いまではテレビのCMでもよく見かけるようになったIBMの「ワトソン」。人間の言葉を解する脅威的な能力を持つ人工知能、というイメージが強いですが、そもそもどのようにできあがってきたものなのか、知りたくて本書を読んでみました。

時はIBMのスーパーコンピューター「ディープブルー」がチェスの世界チャンピオン、ガルリ・ガスパロフを破った時代までさかのぼります。チェスの世界チャンピオンを破る事を達成したIBMのメンバーは、次の目標をどこに定めるか、について議論を重ね、有名なクイズ番組「ジョパディ」のチャンピオンを破り優勝する事を目的とします。

その道筋は並大抵でない事が本書を読むとよくわかります。チェスト異なり自然言語を「理解」し、問題の内容に沿った回答を導き出すためには、これまでと異なったアプローチが必要となります。機械に言語を「理解」させることができるのか?という内容の説明を読んでいると、その難易度の高さがひしひしと伝わってくるとともに、人間の脳がどれだけ高度な処理をこなしているのか、それもよくわかります。例えば二、三歳の子供でさえもできる形状と名称のタグ付けという単純な処理、様々な動物やを見て、その名称を答えさせる事さえも、非常に難しいことだということがわかります。

最初はジョパディの優勝者には遥かに及ばない成績しか残す事の出来なかったワトソンは、デイビッド・フェルーチ率いるチームが強化を重ねる事で、遂にジョパディのチャンピオンを破るまでに強くなっていきます。本書にもその様子が書かれていますが、出された問題に的確に答えていくコンピューターの姿は圧巻ですね。知識だけでなく、「ジョパディ」というクイズゲームに勝つためのゲーム戦略さえも適切に創り込まれているあたり、すごさを感じます。

個人的な感想として、本書を読む限り、人工知能が人間の頭脳を完全に上回るにはまだまだ時間がかかりそうです。しかしある分野だけであれば、比較的早く人間の頭脳の先を行く事ができ、人の頭脳を補完する役割を果たせるのではないか?と感じました。人工知能はホットな話題ですので、また関連本を読んでみようと思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
posted by taka at 09:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ノンフィクション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする