2016年11月14日

読書日記618:グラン・ヴァカンス 廃園の天使T



タイトル:グラン・ヴァカンス 廃園の天使T
作者:飛 浩隆
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「いちど観てみたいわ、春を。ここには夏しかないものね」 ぼくは柔らかい春の雨を想像した。美しく残酷な夏の終わりに―― 日本SF大賞受賞作家の初長篇、待望の電子書籍化。仮想リゾート〈数値海岸〉の一区画〈夏の区界〉。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在〈蜘蛛〉の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける――仮想と現実の闘争を描く〈廃園の天使〉シリーズ第1作。

感想--------------------------------------------------
飛浩隆さんの作品です。国内のSF作品としては非常に有名な作品ですので読んでみました。二段組み三百ページ超とボリュームもあり、読み応え十分な作品です。

千年ものあいだ夏が続く「夏の区界」に暮らすAI、ジュールやジュリーたちの前に、区界を消し去る蜘蛛たちが現れる。「鉱泉ホテル」に立てこもったAIたちは硝子体を武器に蜘蛛たちと戦うがー。

本書を最後まで読み終えて、もっとも心に残った言葉は、「清新であること、残酷であること、美しくあることだけは心がけたつもりだ。飛にとってSFとはそのような文芸だからである」というあとがき(ノート)に書かれた言葉です。この言葉を持って作品全体を見直すと、なるほど、この作品は間違いなく最上のSFだと再確認できます。

AIと蜘蛛たちの戦い、硝子を操る五人の女たち、ジュールと得体のしれない右目の欠けた老ジュール、そして鉱泉ホテルや夏の区界に生きる様々なAIたち。残虐さと、エロスと、苦痛に満ちた作品です。蜘蛛たちを操るランゴーニによって劣勢に追い込まれるAIたち。そもそも夏の区界とはなんなのか、ここに生きるAIたちの役割は、ランゴーニの目的はー。
読み終えてもこれらの謎が完璧に解けたとは言い切れません。物語は終末を迎えますが、それは新たな始まりでもあります。ただ作者が書くように清新さと、残酷さと、美しさ、これだけははっきりと胸に残ります。

本作がなぜSFの傑作の一つと呼ばれるのか?それは読み終えて読者の胸に鮮烈な印象を残すからに他なりません。蜘蛛たちの作り出す造形、分解され、食われ、取り込まれるAIたちの苦痛、ジュールとジュリーの鮮やかな心、そして鳴き砂の広がる夏の区界の砂浜。ストーリーよりも、文章の描き出す映像や音、そういったものが心に残りました。

何よりも胸に残るのが、鳴き砂の広がる砂浜と海ですね。この海のイメージが夏の区界という名称や「グランヴァカンス」というタイトルと重なって、緩やかな海のイメージを描き出します。

清新さと残酷さと美しさ。

確かにこれらが満喫できるSFの傑作です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス