2016年10月29日

読書日記616:3652 by伊坂幸太郎



タイトル:3652: 伊坂幸太郎エッセイ集

作者:伊坂 幸太郎
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
エッセイが得意ではありません―。自らはそう語る伊坂幸太郎がデビュー以来ぽつぽつと発表した106編のエッセイ。愛する小説、映画、音楽のこと。これまた苦手なスピーチのこと。憧れのヒーローのこと。趣味を語る中にも脈々と流れる伊坂的思考と、日常を鮮やかに切り取る文体。15年間の軌跡を辿った、初のエッセイ集。裏話満載のインタビュー脚注に加え、幻の掌編2編を収録。

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんのエッセイ集です。「3652」というタイトルは10年という意味だそうです。"2"はうるう年の2ですね。3652日です。ただ、文庫本の本書では15年分のエッセイが掲載されています。

エッセイの内容は、様々ですが、好きな本や音楽、映画について語られた内容が多いです。あとは干支の話ですね(笑)。毎年、その年の干支にちなんだエッセイを書かれており、そのネタ探しに苦しんでいる様がよく伝わってきます(笑)

エッセイの中身は伊坂幸太郎さんならではですね。肩の力の抜けるようなユーモアと、本や音楽への情熱に溢れています。本書の中で伊坂幸太郎さんは様々な本を推薦していますが、ほとんど読んだことがないんですよね。打海文三さんの作品は読んでみようと思いました。あらすじをアマゾンで読んでみましたが、私好みでもありそうです(笑)。

”いつだって私は世の中のことが心配だ”

著者が後半に書いていた言葉です。しかし、この方の作品を読んでいると、あまりそれを感じさせません。そこがいいところなんでしょうし、伊坂作品が受ける理由かな、とも感じました。切羽詰って余裕がなくなっていくばかりの世の中では、伊坂作品に出てくるユーモアや、切羽詰っているのにどこか面白みを感じさせる登場人物が受けるのかな、なんて感じました。

嬉しいことに、本書に出てくる伊坂作品は全て読んでいました。また次回作も楽しみにしています。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年10月23日

読書日記615:ロマンとソロバン―マツダの技術と経営、その快走の秘密



タイトル:ロマンとソロバン―マツダの技術と経営、その快走の秘密
作者:宮本喜一
出版元:プレジデント社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
独自の環境技術「SKYACTIV」の開発がクルマを、社員を、そしてマツダを変えた!

感想--------------------------------------------------
最近、スカイアクティブ技術で絶好調のマツダ。その絶好調の秘密をジャーナリストである著者が書き綴ったのが本書です。マツダに関する本はたくさんでていますね。楽しみに読んでみました。

本書にはリーマンショックにより危機的状況に陥ったマツダが再建していく様子が技術面と経営面の双方から描かれています。歴代の社長や開発の責任者たちの視点から語られる、危機に瀕したマツダの再建の物語は非常にリアルでありテレビのドキュメント番組を見ているようです。技術的な部分は自動車、特にエンジンの仕組みに詳しくないと分かりにくいところもあると感じましたが、個人的には熱中して読んでしまいました。

本書を読んで強く感じたのは、スカイアクティブは技術だけでなく、経営状態や、マツダという会社が置かれた危機的環境など様々な要因が相まって生まれたものなのだ、ということです。原理原則に基づいて技術を突き詰めていく様は確かに凄いのですが、会社が危機的状況に陥っているのにそのような探求を許し、そこにかけることを選択したマツダという会社の経営判断も素晴らしいと感じました。

またマツダという会社は地元である広島と非常に強い結びつきを持っていることもよくわかりました。戦時中、原爆投下直後は病院や市政の中心的な役割御担ったようで、マツダが危機に陥った際には地元で懸命に支えようとした様子も伝えられています。地元との結びつきの強さや、理想の車、世界一の車の姿を追い求めるその姿は製造業の理想の姿とも感じました。

本書を読む限り、マツダという会社はビジネス書である「ビジョナリーカンパニー」に書かれている、理念を追求し、理念以外の全てを変えることで対応を図ろうとするまさに「ビジョナリーカンパニー」のように感じますね。一点、本書で気になった点としては、描かれているのが開発本部長や社長など役職の高い人ばかりである点ですね。役員クラスの人々の思いにメンバーが応えていった、ということでトップダウンの会社のように見受けられますが、実際はどうだったのか、現場視点の話も読んでみたいところではあります。

先にも書きましたが、マツダの本は様々出ていますね。また他の本も読んでみようと思います


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年10月16日

読書日記614:My Humanity



タイトル:My Humanity
作者:長谷 敏司
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
擬似神経制御言語ITPによる経験伝達と個人の文化的背景との相克を描く「地には豊穣」、ITPによる小児性愛者の矯正がグロテスクな結末を導く「allo,toi,toi」―長篇『あなたのための物語』と同設定の2篇にくわえ、軌道ステーションで起きたテロの顛末にして長篇『BEATLESS』のスピンオフ「Hollow Vision」、自己増殖ナノマシン禍に対峙する研究者を描いた書き下ろし「父たちの時間」の全4篇を収録した著者初の作品集。

感想--------------------------------------------------
あなたのための物語」、「BEATLESS」の作者の本です。全四編からなる作品ですね。短編、ではなく中編集くらいでしょうか。

「あなたのための物語」にでてきた疑似神経制御言語ITPに関連する二編と、「BEATLESS」のスピンオフ的な作品が一編、書き下ろしが一編ですが、私が最も面白く読めたのは「BEATLESS」のスピンオフ、「Hollow Vision」です。宇宙を舞台にしたSFらしい展開が個人的には好きです。「BEATLESS」にも少しだけ出てきた「アストライア」や「オケアノス」が出てくる作品です。

第一編の「地には豊穣」は文化について書かれた作品です。科学と文化を比較し、人が宇宙に飛び出す時代の文化について描かれています。第二編の「allo,toi,toi」は「好き」という感情の正体を探っていく作品ですが、刑務所に収監された少女殺しの犯人の主観がかなり描かれているため、読んでいて厳しい作品と感じました。四編目の「父たちの時間」は自己増殖ナノマシンに相対する研究者の視点で時間について書かれた作品です。ナノマシンと、自分の子供と、父である自分。その共通項である時間についてと、種を残していく中で生殖後はほとんど意味を持たない父の時間について描かれています。

どの作品もこの著者の作品らしく、抽象的で概念的で、理解に非常に時間を要します。好き嫌いが明確に分かれる作品だと思います。SFとは言いつつも描かれているのは未来の人間のあり方がほとんどであり、リアルではあるのですが、ストーリーに救いがないです。近未来の人間の有り様や、技術だけでなく概念的な面の進化や、認識の変化などが描かれているように感じますが、エンターテイメント性は高くなく、あり得る未来の一部をかいま見る作品群、といっていいかと思います。特に最後の作品は、完結はしているのですが、なんとも中途半端に感じました。こうして終わらせるしかないとは思うのですが、何も解決しておらず、ストーリー重視の方には厳しい作品と感じます。

ただ、繰り返しになりますが未来の予測やそこで生きる人間の有り様の描き方には凄まじいものがあります。一文一文が研ぎ澄まされていて、熟読に耐えうる作品です。(その分、読むのがとても大変ですが。)「あなたのための物語」ほどではありませんが、決して万人受けする作品ではありません。それでもきっと、私はこの方の作品を読むだろうな、と思います。今、現実にはない世界をリアルに描き出せる希有な作家さんだと思います。




総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年10月09日

読書日記613:マルドゥック・アノニマス 2



タイトル:マルドゥック・アノニマス 2
作者:冲方丁
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
企業の内部告発者ケネス・C・Oの行方を追うなかで、ウフコックはパートナーのロックと弁護士サムを“クインテット”による惨殺された。保護証人を失ったイースターズ・オフィスは事件不成立により調査を中断するが、ウフコックはサムの遺志を継いで“クインテット”への潜入捜査を始める。ハンターの緻密な戦略のもと、アンダーグラウンドを制圧する“クインテット”の悪徳を、ウフコックはただ傍観するほかなかった。

感想--------------------------------------------------
待ちに待っていた「マルドゥック・アノニマス」の二巻です。表紙の絵は<クインテット>の首領 ハンターと彼に付き従う三匹の猟犬たち。全てを均一化(イコライズ)しようとする彼が主人公の巻です。

相棒を<クインテット>に殺されたウフコックは彼らの首領、ハンターの動きを探りだす。しかしウフコックは次第に、彼に自分と共通点がある事に気付き始めるー。

圧倒的な迫力とテンポで繰り広げられる異能者<エンハンサー>と街を支配する五つの勢力の戦い、悪逆を尽くしながらも街を徐々にイコライズしていくハンター、そんな彼に惹かれていくウフコックと、全く読者を飽きさせません。特にこの巻では、悪逆でありながらも類い稀なる精神力を持つ<クインテット>の首領、ハンターが緻密に描かれており、その魅力にウフコックだけでなく読者も惹かれていきます。三匹の犬を連れている姿から「マルドゥック・ヴェロシティ」のクルツを思い起こさせますが、その統率力とカリスマ性は彼を遥かに超え、ボイルドを連想させます。

息つく暇もない展開と、手に汗握るエンハンサーのバトル、マルドゥック市の根幹に一歩一歩近付いていくハンター。バロットやウフコックの出番はほとんどないのですが、すごく面白いです。このままハンターたちがどこまで迫れるのか、すぐにでも続きを読みたくなります。

街を”均一化”しようとするハンターと”匿名(アノニマス)”で街を救おうとするウフコック。ハンターたちクインテットとウフコックたちイースターズオフィスの戦いは次第に”一つを目指すもの”と”個であることを願うもの”の戦いになっていきそうです。ここにバロットやイースターがどう絡んでくるのか、楽しみで仕方ありません。

本巻の最後は物語の行く末を暗示しますね。一巻の冒頭で描かれていたガス室の中で死を待つウフコックと、そこに現れるあの人。この物語はどこまで続くのでしょうか?先が早く読みたい、という気持ちと、読み終えたくない、と思う気持ちの板挟みになる作品です。三巻も楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年10月01日

読書日記612:わたしを離さないで



タイトル:わたしを離さないで
作者:カズオ・イシグロ
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点。解説/柴田元幸。

感想--------------------------------------------------
名作と呼ばれる作品です。少し前に綾瀬はるかさん主演でドラマ化もされていました。期待をもって読んでみました。

ヘールシャムと呼ばれる施設で生まれ育ったキャシー、ルース、トミー。育つにつれて理解する施設の特異な特徴と、自分たちの使命が、各々の関係と生き方に影を落としていくー。

本書はSFなのですが、SF色はさほど強く感じさせません。キャシー、ルース、トミーの三人の関係性とその生き方、そして運命を受け入れていくまでを描いた、人間の作品と言っていいと思います。あとがきにもありますが、全編、抑制が利いていて、描写が緻密です。そしてその緻密な描写によるリアリティが読者の胸に迫ります。噂通りの名作だと思います。

幸せな幼年時代を送っていた三人。しかし成長するにつれて施設の裏の顔と自分の使命に気付き、そのことが人生に影を落としていきます。そして介護人と提供者になり、人生と向き合わざるを得ない三人。そこで思い出されるのはヘールシャムでの幼年時代です。


”この世界でお互いに共有できる時間がとても短いものであると分かったときに、我々にとって一番大事なものは何でしょうか?この物語が、物質的な財産や出世の道よりも愛や友情そしてこれらを我々が経験したという大切な記憶が本当は価値があるものであると思わせてくれることを願います”


これは「わたしを離さないで」の公式サイトにあった著者の言葉です。この物語はそのSF的な仕掛けばかりに目が行きがちですが、物語の本質はそこではありません。三人が過ごした幸せだった頃の日々、三人の成長と関係、そしてその思い出。それら全てが大切なものなのだ、と言っています。人間はいつしか必ず死にますが、人々は日頃、それを意識する事はありません。しかしこの三人は自分たちの使命から、常に死を意識せざるを得ません。そして、だからこそ三人の日常が思い出が、それは必ずしも楽しい思い出だけではないにも関わらず、輝いて見えます。

「かわいそうな子たち」
キャシーとトミーは物語の最後でそう呼びかけられます。死が宿命づけられた「かわいそうな子」。しかし死が人間の宿命なら、人は必然的にかわいそうな存在なのでしょうね。そしてその死を前に楽しい思い出に涙する主人公のラストは何度も読み返してしまいました。人の人生と、その悲喜が鮮やかに描かれた名作だと感じます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス