2016年04月30日

読書日記590:ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉



タイトル:ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
若き副帝ユリアヌスは、前線での活躍で将兵や民衆の心を掴んでゆく。コンスタンティウスは討伐に向かうが突然病に倒れ、紀元361年、ユリアヌスはついに皇帝となる。登位の後は先帝たちの定めたキリスト教会優遇策を全廃。ローマ帝国をかつて支えた精神の再興を目指し、伝統的な多神教を擁護した。この改革は既得権層から強硬な反対に遭うが、ユリアヌスは改革を次々と断行していくのだった―。

感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の三十九巻です。「キリストの勝利」の中巻ということで、キリスト教徒からは「背教者」と呼ばれることになるユリアヌス帝の話です。

大帝と呼ばれキリスト教を協力に援護したコンスタンティヌス帝の跡を継いだのはコンスタンティウス。そしてそのコンスタンティウスと対立することになった副帝ユリアヌスは運よく戦うことなく皇帝となります。そしてキリスト教だけでなく、他の宗教も認めるように働きかけていきます。

この巻を読んで思い浮かべるユリアヌスは「無垢な人」というイメージです。王宮に巣食っていた宦官たちを追い出して簡素な暮らしを貫き、哲学の徒でもあったユリアヌスは、自分の思いと正義のみに生き、世俗とは一線を画していたように感じられます。世の楽しみを知らないこのような人が皇帝になると、一般人としてはやりにくいのかな、と感じますね。市民とともに世を楽しんだカエサルなんかと比べると、真面目な人と思われます。

市民の反感を買い、ペルシャとの戦争中に不慮の死を遂げるユリアヌス。彼の死にも疑惑がつきまといますね。残した言葉も本書に書かれていますが、どうも綺麗過ぎて、これもまた後世の人間が創り上げた者ではないか?と感じてしまいます。

信じる宗教がなんであれ、国体がどうあれ、そこに生きるのが人間であるのは今も昔も、古今東西も変わるわけではなく、人の本質や世の流れを変えることはたとえどれほどの権力をもっていてもできないんだろうなあ、って感じます。実際、ユリアヌスが施行した法律の多くは、その後すぐに廃止され、結局はキリスト教優遇政策が続いていきます。

長かったローマ人の物語もあと四巻です。滅び行く国を見つめるのは切ないですが、最後まで読んでいこうかと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年04月23日

読書日記589:もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら



タイトル:もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
作者:岩崎 夏海
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ある日突然、女子マネージャーになった主人公の川島みなみは、都立程久保高校の野球部を「甲子園に連れていく」と決めた。でもいったい、どうやって? 世界で一番読まれた経営学書『マネジメント』の理論を頼りに、みなみは野球部を変革して行く。「真摯さ」とは何か、顧客は誰か、組織の成長とは……。ドラッカーの教えを実践し、甲子園出場をめざして奮闘する高校生の青春物語!

感想--------------------------------------------------
いまさらながらの「もしドラ」です。言わずもがな、数年前に爆発的なヒットを飛ばした作品ですね。ずーっと積んだままになっていましたがようやく読むことができました。

野球部マネージャーのみなみはドラッカーのマネジメントと出会う。そこに書かれていた内容は野球部復活のための秘訣に通じていたー。

二十世紀最高の知性の一人と呼ばれる経営学者ピーター・ドラッカー。その著書「マネジメント」に出会った弱小野球部のマネージャーみなみが、「マネジメント」の内容を反映させて野球部を甲子園に導いていく、というお話です。一時、ものすごいブームになった本ですので、読んだ方も多いのではないでしょうか。

青春小説にマネジメントの内容を反映させた本、ですが、特筆すべきはその読みやすさです。文章がとても読みやすく、軽く、どんどんと読んでいくことができます。重い本を求めている方には物足りないかもしれませんが、昨今ではこのくらいの軽さの本のほうが売れている気がしますね。ニーズを掴んでいるなあ、と感じます。

「マネジメント」が主体の小説、と読み始めた当初は感じていましたが、最後まで読むと意外にも感動する青春小説でした。「え?こんな展開?」と正直驚きました。笑顔あり、涙ありの意外にも(失礼ですが・・・)感動する本です。


「マネージャーに必要な根本的な資質は真摯さである」


詳しくは読んでいただきたいですが、「マネジメント」の本質はこの一言に尽きますね。そして「マネジメント」というものは経営の現場だけでなく、本書に描かれている野球部のような、あらゆる組織に適用できるものなんだ、とわかります。

本書では「マネジメント」を適用することで野球部は劇的に変わっていきます。その変わり方はさすがに小説らしさを感じてしまうのですが、マネジメントの凄さは良く伝わります。ドラッカーのマネジメントは読めなくても本書なら軽いしよめるのではないでしょうか。私も未読ですが「マネジメント」はあらゆる経営書の原点となる本と感じました。最近では「もしドラ2」も出ていますね。こちらを未読の方は二冊合わせていかがでしょうか。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
レビュープラス
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2016年04月16日

読書日記588:真実の10メートル手前 by米澤穂信



タイトル:真実の10メートル手前
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める…。太刀洗はなにを考えているのか?滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執―己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。日本推理作家協会賞受賞後第一作「名を刻む死」、本書のために書き下ろされた「綱渡りの成功例」など。優れた技倆を示す粒揃いの六編。

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。本書は「さよなら妖精」、「王とサーカス」に登場する大刀洗万智が登場する六編の短編から成る短編集です。「さよなら妖精」では学生だった万智が新聞記者を経てフリーの記者となり、記者の視点から事件の背後に隠された事実を掴んでいくという物語です。

表題作でもある「真実の10メートル手前」から、「正義漢」、「恋累心中」、「名を刻む死」、「ナイフを失われた思い出の中に」、「綱渡りの成功例」と続きますが、どの作品もミステリとしての質も、大刀洗万智の生き方を問う人間ドラマとしての質も非常に高く、さすが、最高のミステリ作家の一人である米澤穂信の作品だと思わされます。

倒産した企業の広報担当女性の失踪、高校生二人の心中、老人の孤独死、少年による幼児の殺人と、どの短編でも、扱われる事件は残酷なものが多く、さらにこれは米澤作品の特徴でもありますが、どの事件も決して安易な終わり方をしません。むしろ残酷な結末を迎える作品も多いのですが、主人公である大刀洗万智はその残酷な結末を迎える作品の中でもかすむことのない強い存在感を持っており、抑えた表現や筆致と融合することで、どの物語も単なる残虐な作品として終わらず、質の高いミステリとなっています。万智の強さが特にわかるのは「名を刻む死」ですね。最後の万智の言葉、これを放てる強さが読者を魅了します。

この大刀洗万智という人物は無表情で発想は飛躍するのですが切れ者で、記者という職業への誇りとを 内に秘めた人物として描写されています。万智の一人称であったり、他者の目線を通してだったりと視点は物語によって変わるのですが、この個性は当然ながら一貫しています。またこれは「王とサーカス」でも顕著でしたが、どの物語の根底にも記者、もっと言うと報道というもののあり方についての問いがあり、万智は常にこの問いを胸に秘めていますね。「真実は何か」と「書くべきか」という二つの問いに対して大刀洗万智が悩みながら出す答えがよく、私はこのシリーズもたいへん好きになりました。

本作の中では、やはり「ナイフを失われた思い出の中に」がいいですね。物語的な繋がりはないですが「さよなら妖精」の後の話でもあり、万智の覚悟が分かる作品でもあります。

これは米澤作 品の新しいシリーズの始まりと考えてもいいのでしょうかね?大刀洗シリーズ、次作もとても楽しみです。またおそらくテレビ化もされるでしょうね。きつい作品が多いので民放よりもWOWOW向きかもしれません。誰が大刀洗万智を演じるのだろう?なんて、まだ早いですが想像も膨らみます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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2016年04月09日

読書日記587:人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃──人口問題民間臨調 調査・報告書



タイトル:人口蒸発「5000万人国家」日本の衝撃──人口問題民間臨調 調査・報告書
一般財団法人 日本再建イニシアティブ (著)
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
危ないのは地方だけではない。
首都圏消滅も始まっている。
人口問題は日本史上最大の危機だ!

財界、官界、アカデミズムを代表する賢人が結集。
人口問題をソフトランディングさせ、
100年後も活力ある日本を維持するために
いま何をすべきかを大胆提言!

感想--------------------------------------------------
「人口蒸発」その刺激的なタイトルから読んでみました。人口減少、少子高齢化は現代日本の問題としていろいろな場面で取り上げられていますが、まとまった書籍として読むのは初めてです。

本書は日本再建イニシアティブという一般財団法人がとりまとめた報告書という形式をとっています。本書の最後に書かれていますが、有識者メンバー、ワーキングメンバーともにそうそうたる顔ぶれです。また読むと分かりますが、いろいろな業界、団体に対してヒアリングしていることもわかります。

インフラ崩壊、限界集落・マンションの増加、シルバー民主主義の台頭など様々な問題について本書では客観的な視点から調査し、そこに専門家の観点からの評価・感想を交えて書いています。従って内容は非常に濃いものであり読み応えもあるのですが、残念ながら読みやすくはありません。。。これは一つにはポンチ絵などの絵がほとんどないこと、二つには要点をまとめて書くような書き方をしていないことが原因ですね。昨今のハウツー本は過剰なまでに読みやすさを意識して書かれていますが、本書はその対極にある本と感じました。

しかしその中身は非常に示唆に富んでいます。今世紀末には日本の人口は五千万人になる、限界集落が増加し孤立死などが急増する、人口減により消滅する集落が急増する、などなど。ニュースや新聞で書かれているのでご存知の方も多いかもしれませんが、調査に基づいて書かれているため、説得力があります。また本書はその状況をもとにしっかりとした政策提言にまでまとめています。具体的な行動レベルにまで落としこめていることは評価できます。

「人口問題は長期的な問題である」

これが人口問題の解決を難しくしている大きな要因と感じました。数十年から百年単位で解決が必要なこの問題には世代を超えて対策に当たる必要がありますが、直近の選挙での票の獲得を目指す政治家や、逃げ切りを目指す既得権益層にとっては解決に努力をしてもほとんど意味のない問題です。本書には、ビジネスと紐付けることで人口問題の解決にあたっている例も幾つか紹介されていますが、やはり政策・制度といった「仕組み」で攻めないと難しいと感じます。このあたり日本独特のボトムアップの政治体制の難しさとも感じます。政策が後手後手になるのは仕方ないとして、その遅れを取り戻すためにどうするのか、どのように素早くコンセンサスを取り政策を立案する仕組みを作るのか、その辺りが鍵になるかと感じます。

正直言って、本書に書かれているような数十年後の未来の絵はそのまま現実になる気がします。人口が増えず、子供を生み育てられない最大の理由は、「国民が未来に希望をもてない」ということですね。高度成長期のように国がより良くなっていく未来を誰もが想像できるのであれば、人は増えていくのでしょうが、今はその逆になってしまっています。こうした現実を見ると、日本という国の人口は着実に減っていくだろうし、シビアな話になりますが人口減の行き着く先、日本という国の着地点を見極めておく必要もあるのかな、と感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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2016年04月02日

読書日記586:カッコウの卵は誰のもの



タイトル:カッコウの卵は誰のもの
作者:東野 圭吾
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
スキーの元日本代表・緋田には、同じくスキーヤーの娘・風美がいる。母親の智代は、風美が2歳になる前に自殺していた。緋田は、智代の遺品から流産の事実を知る。では、風美の出生は? そんななか、緋田父子の遺伝子についてスポーツ医学的研究の要請が……。さらに、風美の競技出場を妨害する脅迫状が届く。複雑にもつれた殺意……。

感想--------------------------------------------------
東野圭吾さんの作品です。本作品はちょうどWOWOWでドラマ化されていますね。緋田風美を演じるのは土屋太鳳さん、そして父、緋田宏昌を演じるのは伊原剛志さんと豪華な顔ぶれです。積んだままになっていた本書を読み出したきっかけは、まさにWOWOWでドラマ化された事ですね。内容としては東野圭吾さんらしい、ミステリーと人の心の機微の合わさった作品かと思います。

「カッコウの卵は誰のもの」というこのタイトルは、繋がっていなかった父子の関係を比喩的にさしているのだろうと思って読み進めていたのですが、実は違っていました。この点が本書を読んで驚いた点ですね。ストーリーに大きな影響はないのですが、この「カッコウの卵」が指すものについては「あれ?」という感じでしたね。

本書は個人的には、東野圭吾さんの作品にしては随分とミステリーの仕立てには甘さがあるようにも感じました。脅迫状、そして爆発事件へと物語は発展していくのですが、最後に明かされるその動機や真相に緻密さはあまり感じられず、むしろ父子や科学といった面が強く前面に出ている物語と感じました。ミステリーの部分よりも、宏昌の葛藤の部分の描写の方が強いですね。ちなみに本作の主人公は土屋太鳳さん演じる緋田風美ではなく、父の宏昌の方ですね。緋田風美は脇役ですが、WOWOWのドラマではここを膨らまし、風美の出番を多くしているようです。

簡潔で平易な文を積み重ねて人の心を揺さぶる物語を編み上げていく腕前は確かですが、個人的には多少の読みにくさはありましたが、先日の「人魚の眠る家」の方が好きですかね。良作ですが、東野圭吾さんにはもっともっとと期待してしまいます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
posted by taka at 17:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 東野 圭吾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする