2016年02月27日

読書日記581:HARD THINGS



タイトル:HARD THINGS
ベン・ホロウィッツ (著), 小澤隆生 (その他), 滑川海彦、高橋信夫 (翻訳)
出版元:日経BP社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
強力ライバルからの反撃、会社売却、起業、急成長、資金ショート、無理な上場、出張中に妻が呼吸停止、バブル破裂、株価急落、最大顧客の倒産、売上9割を占める顧客の解約危機、3度のレイオフ、上場廃止の危機―。壮絶すぎる実体験を通して著者が得た教訓は、あらゆる困難(ハード・シングス)、に立ち向かう人に知恵と勇を与える。シリコンバレーのスター経営者に慕われる最強投資家からのアドバイス。

感想--------------------------------------------------
 ビジネス本の中でも非常に評価の高い本です。読んでみたいと思っていましたが、ようやく読むことができました。

 本書は、スタートアップとして企業を立ち上げ、幾度もの困難を潜り抜けてHPに高額で売り抜けた、「成功した」と評されるCEOである著者が、自分の経験を通して学んだCEOとして必要な資質や、ビジネスのやり方について書いた本です。他のビジネス本との大きな違いは「奇麗事を何一つ書いていない」ということだと思います。成功した企業の共通点を第三者的な視点から分析して描いた本が多いのに対し、本書は実際に死ぬほど苦労した現場の人間の視点で書かれていますので、緊迫感があります。

本書を読んでまず感じたことは、「CEOなんてやるもんじゃないな」ということですね(笑)。本書に書かれているCEOとして著者が経験した困難は並大抵のものではありません。

・ドットコムバブルの崩壊により、取引先の半数の企業が倒産する。
・売上の90%を占める企業から60日以内に製品が改善されないなら取引を停止すると宣告される。
・運転資金が底をつき、あと一月半分しかない。

自分の身に起きたら、と考えるだけでぞっとします。本書にはさらに、「CEOは、どれを選んでも最悪な選択肢の中から選択を迫られることが必ずある」とか、「CEOは、必要な情報が全て揃った段階で決断を下せることはまずありえない」などなど、読みながらもCEOの過酷さを感じさせる文章が並びます。

本書はCEOであった著者の経験に基づいた本ですが、CEOに限らず、自分の仕事に少しでも責任を感じるリーダー層の人にはためになる多くの言葉が掲載されています。特にこれまでの様々なビジネス書にどこか違和感を感じていた人や、現場の緊迫感を感じることのできなかった人にはぜひ読んでいただきたい本です。トップダウンが当たり前の米国とボトムアップが多い日本ではCEOの意味合いは少し変わるかもしれませんが、そのマインドに通じるところは非常に多いです。実際、私は非常に参考になりましたし、本書は借りて読みましたが、手元に置いておきたいと思いました。

部下の評価の仕方、組織の創り方、幹部の選び方など多岐に渡ってかかれていますが、「戦時のCEOと平時のCEOでは、求められる資質が全く違う」といった文章など、考えさせられる部分が非常に多いです。奇麗事だけでなくレイオフ(解雇)の仕方などについてもしっかりと書かれているところが米国っぽいですね。

どろどろとした、本当意味でのCEOの仕事、米国のスタートアップの本当の姿を知りたい、彼らから学びたい、と考えている方にはぜひお勧めの本です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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2016年02月21日

読書日記580:ローマ人の物語〈36〉最後の努力〈中〉



タイトル:ローマ人の物語〈36〉最後の努力〈中〉
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
紀元305年、ディオクレティアヌスが帝位から退き、新たに指名された四人の皇帝による第二次四頭政がはじまる。しかし、その後六人もの皇帝が乱立。その争いは内乱の様相を呈する。激しい政治闘争と三度の内戦ののちに勝ち残ったのは、東の正帝リキニウスと、のちに大帝と呼ばれることになる西のコンスタンティヌス。二人は共同で「ミラノ勅令」を発布し、一神教であるキリスト教を公認した。こうしてローマの良き伝統は跡形もなく崩れ去った。

感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の三十六巻です。四頭政を敷き、外敵の侵攻からローマを守る事に成功した皇帝ディオクレティアヌスが帝位を退いたところから本巻は始まります。本巻は内乱の時代を描いており、久しぶりに戦闘の描写の多い巻となっています。

一時期は六人もの皇帝が乱立する状況だったローマ帝国ですが、最後に勝ち残ったのは「大帝」と呼ばれるコンスタンティヌス。そして彼は有名なミラノ勅令を発し、キリスト教を公認します。外敵の脅威は少なくなったものの内乱の時代は続いていきます。同じ国の人間同士が殺し合う戦争は、その国の人間にとってはたまらないでしょうね。。。

セヴェルス、マクセンティウス、マクシミヌス・ダイア、マクシミアヌス、と一時は皇帝まで上り詰めた者たちは、皆、自死や戦死、謀殺などにより退場していきます。五賢帝時代とは異なった荒廃の時代ですね。掲載されている「パッチワークの凱旋門」と呼ばれるコンスタンティヌス帝が凱旋した際に贈られた、様々な時代の建築物をつなぎ合わせた凱旋門では、時代の新しい部分よりも古い部分の方がよいできです。人の世は、時代が進むにつれて必ずしも良くなるわけではなく、むしろ繁栄していた時代の方が、その先の時代よりも様々な面でよくなることを示しているように感じられます。

五賢帝時代と呼ばれる平和と繁栄の時期を過ぎ、衰退の時期、人間で言うと老齢の時期に入ったローマ帝国。本書を読んでいると、人と同じように国にも一生があり、その一生の最後では国はどろどろの状態に陥っていくように感じられますね。

話が飛躍しますが、翻って昨今の世界情勢を見ると、どの国も永遠に続くことを、経済も政治も成長することを前提としているように感じられます。


「今われわれは、かつては栄華を誇った帝国の滅亡という、偉大なる瞬間に立ち会っている。だが、この今、わたしの胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかはわがローマも、これと同じときを迎えるであろうという哀感なのだ」


紀元前にカルタゴを滅ぼした際にローマの将軍、スキピオ・エミリアヌスが残した言葉ですが、まさにこの瞬間が近付いています。永遠に続く者はない、という理に従うとすると、人も、国も、人類という種も、さらには地球や宇宙でさえもいつかは滅びの瞬間を迎えます。「いかに滅びの瞬間を先送りにするか」を考える事も必要ですが、「いかに悲劇を抑えて滅びを迎え、次の世代に渡していくか」を考えることも重要だな、と本巻を読むと感じたりもします。歴史から何かを自分の事として学ぶ事はなかなか難しいですが、少なくとも価値は十分にありそうです。

しかし、本巻を読んでいて哀れだったのは帝位を譲り隠居したディオクレティアヌスです。一時は帝国で最高の権力を握りながら、隠居したがために家族を殺され、誰も言う事を聞かなくなり。。。と散々な状況で、権力は握り続けないと駄目なんだな、って感じたりもして、権力に固執する人がいる理由も納得できたりしました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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2016年02月13日

読書日記579:いちご同盟



タイトル:いちご同盟
作者:三田 誠広
出版元:集英社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。

感想--------------------------------------------------
三田誠広さんの作品です。今から二十年以上前の作品ですが、心に残る作品だと感じました。著者は「僕って何」で芥川賞を受賞されています。

高校進学にそして生き方に悩む良一は、ある日野球部のエース徹也に誘われて病院に行く。そこで出会ったのは入院している同い年の直美という少女だったー。

 鮮烈な作品です。その鮮烈さは二十年を経ていても色あせてはいません。確かに今の小説と比べると作りも、描かれている時代も古さを感じさせますが、そのメッセージ、終わり方には、今の小説にはない素直さ、ストレートさを感じます。
本作のタイトル「いちご同盟」ですが、”いちご”とは果物の苺のことではなく、一五、つまり十五歳の同盟という意 味です。青春の真っただ中である十五歳という年齢、その刹那を切り取って結んだ「いちご同盟」。青春という一瞬の時期を切り取った名タイトルだと思います。

 生きることに迷う良一、今という刹那に生き、そのことを自覚して過去を忘れることを恐れる徹也、余命いくばくもない直美。将来と生きることに悩む三人の姿を著者は静かにそして淡々と描いていきます。背景にあるのは良一が打ち込むピアノの調べ。これが物語にさらなる静けさと、余計なものを省いた潔さ、簡潔さをもたらしています。

 容赦なく進む時、そして訪れる結末。特に心に残るのは直美の鮮烈さです。今を生きる自分の痕跡を残そうとし、自分の感情を必死に表そうとする直美。彼女の鮮烈な生き様が良一をそして徹 也を揺り動かしていきます。終わり方も潔く、読者の心に余韻を残します。

この作品は確かに名作です。時を経て、将来に伝えられるべき本でしょうね。静かにそして熱いものを読者の心に残す本だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
posted by taka at 14:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年02月06日

読書日記578:サラバ! 下



タイトル:サラバ! 下
作者:西 加奈子
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。

感想--------------------------------------------------
上巻に続き、下巻です。読み終えた直後の感想。本当にこの本を読むことができてよかった。そう思わせてくれた本です。久しぶりです。こんなに本の持つ力を感じたのは。

大学に進み、社会人となった歩。そして変わらず奇行を繰り返す姉。再婚する母。出家する父。ばらばらになる圷家と信じるものを見出せない歩。そしてー。

私が感動したのは、私がこの作品の主人公である歩と近い歳だからかもしれません。三十七歳。小さい頃に持っていた全能の力は失われて残酷な現実に向き合えない、この主人公のような人はきっと今の世の中にたくさんいると思います。前に進んでいく周囲の人間達に言いようのない苛立ちを募らせ、自分がどうすればいいのか分からない歩。ずっと受身で生きてきた人にとって自分から前に進もうとすることはきっと非常に困難なのでしょう。

軽蔑してきた家族や友人にいつの間にか追い越され、こんなはずじゃなかったのに、と悩む歩。そして信じるものを何も見つけられない歩。上巻を読む限りではこの物語はある家族を描いた物語かと思っていたのですが、この本は主人公の歩がその名のとおり歩き出すまでの物語なのですね。そしてその歩き出すきっかけとなるのがタイトルの「サラバ!」に繋がっていきます。


「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」


この言葉が全てを語っているように感じます。困難な時期に陥ったときに、自分の中に信じられるなにかを見出せるのか。そして、そもそもそれを探そうとしたのか。人によってその信じるものは違ってくるでしょうし、歩のようにそれを見出せる人は少ないかもしれません。でもそんな人にはぜひこの本を薦めたい。この本こそがその信じるものになる可能性も十分にあると感じます。


「僕は何かことが起きるといつも自分がそれにどれだけ関与しているか確認した。そして「僕は悪くない」と安心していた。」


本書を読んでいて自分的に最も突き刺さる言葉ですね・・・。痛いです。誰もがきっと少なからず何かを感じる言葉でしょう。他人の痛みを自分の痛みとして感じることができた子供の頃と、大人になった今では変わっていないつもりでも感じ方が変わっていることは誰しもが実感していることかと思います。それこそ時間という巨大な「化け物」のせいなのでしょうが、その「化け物」をうまく味方にできると強いのだということもまた、読んでいて分かります。

文章というのは読み手にこのような感動を与えられるのだなあ、と読み終えてしみじみ思いました。直木賞受賞作ですが、当然と感じます。むしろ本屋大賞は二位なんですね。一位はそんなにすごいのでしょうか。一位の「鹿の王」もそのうち読もうかと思います。

この本はぜひ映像化して欲しいと思う一方で、映像化するとその感動が半減してしまうのではないか、とも感じてしまいます。難しいですね。作品が良すぎるだけあって、原作との比較に曝されるのは必至ですから。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
posted by taka at 10:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする