2013年08月10日

読書日記429:光圀伝 by冲方 丁



タイトル:光圀伝
作者:冲方 丁 (著)
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのかー。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出すー。生き切る、とはこういうことだ。誰も見たこともない「水戸黄門」伝、開幕。


感想--------------------------------------------------
冲方 丁さんの作品です。光圀伝というタイトルそのままに、徳川御三家の一つ、水戸徳川家の第二代当主、水戸光圀の人生を描いた作品です。水戸光圀といえば水戸黄門で有名ですが、ドラマの中の黄門様と本作で描かれている水戸光圀はだいぶ違います。

光圀はその晩年、一人の男を殺めねばならなかった。その理由とは−。

物語は光圀が一人の男を殺める描写から始まります。泣きながら男を殺める光圀。その理由は語られることなく物語は光圀の幼少期へと移り、傾奇者として生き、様々な出会いと別れを繰り返しながら成長して行く光圀の姿が描かれていきます。なぜ光圀は男を殺したのか−?その答えに辿り着くまで光圀の人生譚が続いていきます。

天地明察」で本屋大賞を受賞した著者の作品だけあって、その筆致や文章は確かです。七百五十ページという非常に分厚い本であり、描写も精緻で、各ページびっしりと文字が埋まっている印象なのですが、あっと言う間に読んでしまいました。

本書の魅力は何よりも主人公である光圀の生き様ですね。ドラマで語られている好々爺である黄門様とは違い、本書で描かれている光圀は剛毅な性格に、優れた肉体、文事にも優れた才能を発揮する、まさに文武両道の人です。次男である自分が家督を継ぐことになった不義を悔やみ続け、自らの信じる義を真っ当せんとするその生き様も清々しく、読み手をひきつけてやみません。

文武、特に詩歌の才は非常に高く、さらに史記の編纂にも多大な努力を惜しまない光圀。しかしその人生はまさに出会いと別れの人生ですね。三代将軍 家光から五代将軍 綱吉の時代であることを考えれば当然ですが、当時の人の寿命はあまりにも短く、ちょっとした病気で簡単に命を落としていきます。

読んでいるとすごく感じるのですが、本書では登場人物の亡くなる描写が非常に多いです。ほとんどは病によるものですが、友や家族がいとも簡単に世を去って行く様に、光圀の心にもいつしか死というものを必然的なものとして受け入れ、いつ何時、親しい人が死ぬかもしれない事に対する備えのようなものができていくように見受けられます。


史記は人に何を与えてくれるのか?
人の生である。


本書の中で最も印象に残る文です。大日本史の編纂で特に有名な光圀ですが、彼は人の生と死を多く経験することで、まさに人こそが歴史を紡ぎ、歴史とは人の生きた証、そのものであるということを、身を持って実感していたのではないかと思います。死んで今は亡き人も確かにそこにいたのだ、と光圀は実感していたのでしょうね。そして、そのようなことを読み手に暗に理解させる描写をするこの著者は、やはり只者ではないと感じさせます。

出会いと別れ。
人生とはまさにこの繰り返しであり、偶然の出会いもあれば避けられない別れもあります。医療が発達しておらず、人が簡単に死んで行く時代、きっと多くの人はこれを受け入れていたのでしょうね。死を必然と捉え、死を悼むと同時に生を慈しむ生き方をすることのできていたこの時代の人たちは、生の脆さを知っていた分、今の人よりもちゃんと生きていたのかもしれない、と感じました。

しかし、「天地明察」の渋川晴海といい、この徳川光圀といい、人選が渋いですね。戦国時代ならドラマチックなストーリーも描き易いと思うのですが、太平の世を描きながらこれだけ読者を惹き付ける物語を書くことのできる著者は本当に一流です。「天地明察」のような重厚な歴史小説で本屋大賞をとるかと思えば、「マルドゥクスクランブル」のような近未来SFアクションで日本SF大賞をとったりと、本当にこの著者は幅が広いです。今現在、間違いなく日本で最も面白い作家の一人だと思います。そして本作もこの二作に負けていないですね。読み終えて充実感のある、心に残る本でした。次の作品にもすごく期待しています。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス
posted by taka at 10:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 冲方 丁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする