2012年09月13日

読書日記370:誰かが足りない by宮下 奈都



タイトル:誰かが足りない
作者:宮下 奈都
出版元:双葉社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
予約を取ることも難しい、評判のレストラン『ハライ』。10月31日午後6時に、たまたま一緒に店にいた客たちの、それぞれの物語。認知症の症状が出始めた老婦人、ビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など、その悩みと前に進もうとする気持ちとを、丹念にすくいとっていく。



感想--------------------------------------------------
本作も「ピエタ」や「ジェノサイド」、「ユリゴコロ」などと同じように2012年の本屋大賞にノミネートされていた作品です。結果的には三浦しをんさんの「舟を編む」が大賞を受賞されていますが、ノミネートされた作品はどれも例外なく面白かったので、本作も楽しみに読んでみました。

駅前にあるおいしいと評判のレストラン「ハライ」。ある夕方、そのレストランに居合わせた客には、それぞれのドラマがあった−。

本作は「予約1」から「予約6」までの六章と、明示的には書かれていませんが、プロローグ、エピローグ的なレストラン「ハライ」の内容を描いた箇所から構成される本です。六章もあるのに全体で180ページ足らずと短い内容の本です。

本作は十月の終わりの夕方のレストラン「ハライ」の場面描写から始まります。おいしいと評判で常に予約がいっぱいの「ハライ」。その夕方に、そこに居合わせることになった六組のお客の、「ハライ」で食事をするに至るまでの物語が、各章で描かれています。しかし、そのレストランには一つ、いるべき人のいない「誰かが足りない」席があります。そして本作のタイトルにもなっているこの「誰かが足りない」というのが、各章に通じるコンセプトであり、この「誰かが足りない」という文言で作品は幕を閉じます。

各章で描かれている「ハライ」に予約をすることになる人々の境遇は様々です。認知症になりかけの老女、カメラ越しにしか世界と接することのできない青年、仕事に疲れた女性。各章の主人公の多くが日常に悩みを抱え、行き詰まりを感じています。そしてその行き詰った心情の描き方が、本作では非常にうまいです。これはやはり女性である著者の特徴でもあるとも思うのですが、心情の描き方、すくい上げ方が繊細です。ちょっとした心情の揺れもさらりと描かれています。そしてそのことが物語にそこはかとない寂しさと切なさを与えています。

各章は決してハッピーエンドで終わるわけではありません。しかし各話に共通しているのは、「『ハライ』に行こう」という言葉が各章の登場人物たちの人生を変えるひとつのきっかけになっているということです。とてもおいしい料理を提供するレストランに行くことが、人生の転機になる。こんな経験はあってもおかしくはないかと思います。

美しい記憶がそのままその人の美しさを支えるわけではないように、悲しい記憶が人のやさしさを支えることがあるように、いいことも、悪いことも、いったん人の中に深く沈んで、あるとき思いもかけない形で発露する。

本作でもっとも印象に残った文章です。人生のありようをそのまま語ったような文章ですね。著者の人生経験と、人生というものに対する洞察の深さがうかがい知れます。どのような経験でもその人の受け取り方次第であり、その受け取り方が人生を深くし、人を成長させる。そう言っているようにも聞こえます。

本作は各章で様々な登場人物の人生と、その転機について語られていき、最後にレストラン「ハライ」の場面に戻ります。最後に語られる著者の「誰かが足りない」という事実へ対する解釈はとてもいいですね。ラストの五行。この五行が物語をとてもあたたかいものへと仕上げてくれています。さらっと読めてしまうため淡白な印象もありますが、本屋大賞ノミネートに恥じない良作だと思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 00:09| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本文学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする