2012年05月30日

読書日記348:折れた竜骨 by米澤穂信



タイトル:折れた竜骨
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた・・・。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、"走狗"候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年ーそして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場。


感想--------------------------------------------------
氷菓」がアニメ化され、出す作品どれもヒットしている米澤穂信さんの作品です。このミスの作家別ランキングで一位を獲得するなど、売れっ子作家といっても過言ではないでしょうね。本作は「ジェノサイド」に続いて「このミステリーがすごい!」ランキングで二位に輝いた作品です。

海に囲まれ人を寄せ付けない孤島:小ソロン島の館で領主ローレンとは殺された。暗殺騎士の手下であり殺人者である、「走狗」は誰なのか?父を殺されたアミーナと騎士フィッツジョンは犯人探しに奔走する。

非常に独特な作品ですね。舞台は十二世紀末の欧州:北海の小ソロン島、騎士に暗殺騎士、魔術、さらには不死の「呪われたデーン人」まで現れる本作は作風から言えば完全にファンタジーなのに、そこで繰り広げられるのは領主である父を殺した犯人を捜す、紛れもない「ミステリー」です。こんな舞台で繰り広げられるミステリーはあまりないのではないでしょうか。独特な作品です。

本作の舞台となる世界では「魔術」なるものが存在します。それは青銅の巨人を操るものであり、人を自分のいいなりにするものであり、また自分の姿を消すものでもあります。さらには首を切られない限り死ぬことのない「呪われたデーン人」なるものも存在します。こういったある意味、常識を逸脱した仕掛けを用意するのは、ミステリーを書く者にとっては非常に大きな賭けでもないかと思います。我々の常識が通じない世界で犯人探しをする、というのは通常のミステリーでは通じる論理が通じなくなるわけですから。しかし本作はここのところを非常にうまく処理し、一流のミステリーとして仕上げているなあ、と感じさせます。

しかし一方で、読み始めて最初はこの「魔術」が非常に引っかかりました。「魔術」がある世界として読み進めてよいのか、この「魔術」自体も何かの仕掛けなのか、そのあたりの見極めがなかなか最初はつかないのですね。途中まで読んでようやく「ああ、この世界は本当に「魔術」が存在する世界なのだ」と腑に落ちました。

時代考証や舞台の設定もうまく、十二世紀末の雰囲気が非常に良く出ています。……この時代背景の描き方は確かにうまいのですが、「ローマ人の物語」や「ヴィンランド・サガ」を読んでしまうと、まだまだ甘いなあ、って感じてしまいます。特に時代は違えど同じ北海沿岸付近を描いた「ヴィンランド・サガ」の時代考証と比べてしまうとまだまだと感じてしまいますね。これは比較対象が悪いのですが。

ストーリーは分かり易く、最後に謎解きがあって一件落着するのですが、どうも腑に落ちないところがありますね。それはおそらく、主要な登場人物の誰もが冷静で落ち着いていて、あまり感情的にならないからかな、って考えてしまいます。これはこの著者の作品にわりと共通しているのですが、感情的になる人が登場する物語が少なく、人間味が作品から薄れているからでしょうね。ミステリとしては申し分ないのですが、人間ドラマにはなっていない作品が多いかな、って感じます。まあそれがこの作者の持ち味でもあるのですが。

異世界を舞台にした、独特な作品ではあると思います。この著者の作品らしいです。私がこの著者の作品で好きなのは、「インシテミル」や「儚い羊たちの饗宴」ですね。ああしたゲームのようなミステリ作品はこの著者の真骨頂でしょう。面白い作品を量産する著者ですので、次回作も期待です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス
posted by taka at 22:47| Comment(0) | TrackBack(2) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする