2011年01月12日

読書日記249:天地明察 by冲方 丁



タイトル:天地明察
作者:冲方 丁
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
江戸、四代将軍家綱の御代。ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること--日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!


感想--------------------------------------------------
渋川春海。
歴史に詳しい方でも、この人がどのような人か、何を成し遂げた人か、語れる人は少ないのではないでしょうか。本屋大賞を受賞した本作「天地明察」はこの歴史上の人物、渋川春海を主人公とした物語です。

碁打ちにして算術、暦術、天文にも通じる渋川春海に、日本独自の暦を作れとの命が幕府より下されるー。

二十代の若い碁打ちである春海が神社に算学絵馬を見に行くところから始まります。そこで出会ったどんな算術の難問もたちどころに解いてしまう「解答さん」との出会い、碁打ち同士の会話、老中 酒井との付き合いなど、春海の日常を描きながら徐々に徐々にと物語は加速していきます。

時代背景の描写、考察は非常に重厚です。並大抵の時代考証や調査ではここまでの作品はとても書けないでしょう。相当な量の調査を何年もかけてやられたであろうことがすぐに分かります。また一方で各登場人物の個性が非常に生きています。人が良くてどこか放っておけない春海に、勝ち気なえん、寡黙で堅実な安藤、「解答さん」こと関孝和、などなど、登場人物の誰もが非常に個性的です。四代将軍家綱の時代ということで戦国の世も終わり、どちらかというと地味な人物が多く、話題に上る人が少ない中で、これだけ各キャラクターを生き生きと描けると言うのは作者の筆力の高さが伺えます。

本作の素晴らしい点の一つが、上で挙げた時代考証の重厚さと各登場人物の生き生きとした個性が見事にバランスしている点です。時代考証が重厚な分、登場人物の個性も重厚だと物語として重くなりすぎますし、登場人物に会わせて時代背景も軽いと物語が浮いてしまいます。しかしこの物語はその両者が非常に高い位置でバランスしています。従って、時代小説としても、一般小説としても非常に魅力あるものに仕上がっています。

そして素晴らしい点の二つ目が「改暦」という作業を見事に物語の主題に据えて物語を展開している点です。渋川春海=日本の暦を作り上げた人、なのですが、正直言って本書を読むまではこんな地味な作業を行った人をどう物語として取り上げるのか、想像もつきませんでした。
しかし本書を読んでいくと「改暦」というものが如何に難題か、どれだけの人々に影響を与えるものか、それがよく分かってきます。「暦を変える」ということは、暦を頼りに生活している国民全体に影響を与えることであり、暦を頼りに様々な行事を執り行っている寺社仏閣や天皇家への影響は、さらに計り知れないものだということがよくわかります。彼らへの影響を配慮しつつ、江戸時代の初期にして既に月食や日食を正確に予測し、地球が楕円軌道で太陽の周りを公転していることや公転速度にばらつきがあることまでをも正確に見抜いた渋川春海の凄さが伝わってきます。読み終わる頃には「改暦」を成した人=渋川春海=凄まじい人という印象に変わっていました。

そして素晴らしい点の三つ目ですが、これはこれだけの時代考証をしながらも、物語の中心を「人」に置いている点です。渋川春海は碁や改暦を通じて様々な人物と接触していくのですが、その人々とのつながりが最終的に春海を助けていきます。この物語の描き方はうまいです。特に、春海が保科正之から改暦の勤めを仰せつかる場面が印象的です。「誰もがお前を推している」という言葉とともに保科の口からは春海がそれまでに出会った様々な人物の名前が出てきます。「人と人のつながり」これがもしかしたら本作の隠れた主題なのかもしれません。

500ページ近い大作ですが、あっという間に読み終わりました。さすがに本屋大賞に選ばれるだけのことはある、素晴らしい作品です。「ばいばい、アース」や「マルドゥック・スクランブル」といった、どちらかというとSF/ファンタジー的な作品が目立っていた冲方 丁さんですが、本作のような非常にレベルの高い時代小説も書くのですね。まさに異才。懐の深さの計り知れない方だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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posted by taka at 20:58| Comment(0) | TrackBack(3) | 冲方 丁 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする