2009年04月18日

読書日記127:モダンタイムス  by伊坂幸太郎



タイトル:モダンタイムス
作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
検索から、監視が始まる。 漫画週刊誌「モーニング」で連載された、伊坂作品最長1200枚。


感想--------------------------------------------------
実家に忘れてきました。何を?勇気を。
そんな印象的な言葉で始まる、「ゴールデンスランバー」などで有名な伊坂幸太郎さんの最新作です。本書は同じく伊坂幸太郎さんの作品である「魔王」の数十年後の世界の話になっており、「魔王」で登場した人物も何人か登場します。ですので、事前に「魔王」を読んでおくと、本書をさらに楽しむことができます。

 システムエンジニアの渡辺は、ある言葉を組み合わせてネットで検索すると検索した人間が酷い目に遭うことに気づいた。ネットのむこうにある真実とは?システムの正体とはー?

 本書のタイトルである「モダンタイムス」は数十年も昔のチャールズ・チャップリンの名作、「モダン・タイムス」から来ています。資本主義社会の中で機械の一部のように働く人間を描いた本作は、資本主義社会を風刺した作品としても有名です。

 本作の主題もチャップリンの「モダン・タイムス」とほとんど同じです。ネットの裏で、検索をかけた人間に対して酷いことを行っていたのは悪人でも悪の組織でもなく"資本主義国家"という名前の形の無いシステムでした。その資本主義国家という"システム"の一部となり、「仕事だから」、「そういうことになっているから」という理由で他人を痛めつけることでも何でも行う人々の姿はチャップリンが描いた資本主義社会の部品となった人間の姿と重なります。そして、またそのシステムの一部となっている人間達の姿は我々現代(モダンタイムス)を生きる人間の姿とも重なります。

 「仕事だから」、「そういうことになっているから」、「仕方がないことだから」。そんな理由をつけて、我々人間はシステム化された資本主義社会のルールに従っていろいろなものを切り捨てて生きていきます。時に切り捨てられたものの中には、人間らしさや優しさ、他人に対する思いやりといった大切なものが含まれていることもあります。この小説はそんな我々に警鐘を鳴らしているようにも見えます。「そのルールに従う必要があるのですか?」、「"仕事だから"という理由で大切なものを捨てていませんか?」、「本当に大切なものは何ですか?」と。

 本作、伊坂幸太郎さんの作品らしく、至る所に印象的な言葉が出てきます。「人はそれが"仕事"であればどんなことでもやる」というナチスのアイヒマンの言葉の引用などがそれにあたりますが、最も印象に残った言葉は、やはりチャップリンの代表作である「ライムライト」の中の言葉、「人生を楽しむには勇気と想像力とちょっぴりのお金があればいい」という言葉でしょうか。いい言葉だと思います。そして、人生を楽しむにはシステムの裏側を覗き、既存のルールを疑うことへの"勇気"が必要だよ、と言っているようにも見えます。

 人は国家といった大きな世界の前では本当に無力です。本作の中に出てくる作家:井坂好太郎は「小説で世界を変えたかった」という言葉を発します。(この言葉は本書の作者:伊坂幸太郎さんの言葉でもあるかと思います。)結果として主人公達は、大きな世界を変えることは出来ないけれど、小さな世界である目の前の困っている人を変える・助けることは出来ると気付いていきます。この姿がまた素敵です。

 最近はこのような"目に見えないシステム・社会・不安"と戦い、足掻く作品が多いですね。このブログで紹介した「不器用な赤」や「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」もそうでしょうか。最悪の不景気に見舞われ、テレビをつければ80-90年代の歌謡特集などばかり目立って、かなり行き詰まった感のある今の日本社会では、誰もが少しずつ"資本主義社会"というシステムに疑問やいら立ちを持ち始めているのでしょう。本作、伊坂幸太郎さんの集大成と言える作品と感じましたが、次はどんな作品を出してくれるのでしょうか?楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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posted by taka at 15:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする