2008年11月01日

読書日記96:魔王



タイトル:魔王

作者:伊坂幸太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。


感想--------------------------------------------------
ゴールデンスランバー」などで有名な伊坂幸太郎さんの作品です。出版されたのは少し前ですが、最近、文庫になりました。

 本作、「魔王」の章と、「呼吸」の章から構成されています。「魔王」の章は安藤が主人公、「呼吸」の章は安藤の弟の潤也が主人公となっています。ファシズムへと世の中の流れが傾きつつある近未来の日本で、「考えろ考えろ」と常に考えることで活路を見いだそうとする安藤、それに対し世間から距離を取り自然の中で過ごすことで世間の波に逆らう潤也。さらに、自分が念じた言葉を相手に必ず喋らせることができる安藤と、1/10以上の確率でならなんでも当てることのできる潤也。二人のスタンスや持つ特殊な能力は対照的ですが、世間の大きな波に対してささやかな抵抗を示そうとする、という点では共通しています。

 本作のタイトル「魔王」とは、シューベルトの曲、「魔王」のことを指しています。曲中、お父さんから子供の命を奪い去って行く恐ろしい魔王。その魔王とは誰のことを指しているのか?これは最後まで分からず、読者の想像に依るしか無いのですが、物語の一つのキーではあります。
 もう一つのキーが、作中、ファシストの象徴のような首相候補 犬養が好んで引用する宮沢賢治の作品ですね。「注文の多い料理店」で、料理店の言うがままにコートを脱いで銃を置いて、店の奥に進んで行く猟師たち。その姿は国家の言うままに従う日本国民と大きく被っています。

 本作、結局言いたいことは「時代の流れ、と言う大きな流れの中で、個人に何が出来るか」ということなのでしょうね。安藤は考えることで、潤也は世間と距離をとることでファシズムに傾く時代の流れに対抗します。その結果、どうなったのか?ささやかな抵抗の結果は?それはきっと、本作の将来を描いた、最近出たばかりの「モダンタイムス 」で語られるのでしょうね。
 正直、本作だけでは中途半端な終わり方、という印象が否めません。きっと「モダンタイムス」まで読んで始めて面白さがわかるのでしょうね。

 本作、伊坂幸太郎さんの作品にしては珍しく思想的な色合いの濃い作品と感じました。(「テーマとはしていない」、とあとがきで伊坂幸太郎さんは言っていましたが・・・。)でも、「死神の精度 」に出てきた死神、「千葉」が出てきたりして、伊坂作品の好きな人にはお勧めです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

タグ:書評 魔王
posted by taka at 18:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 伊坂 幸太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする