2008年07月19日

読書日記72:スカイ・クロラ



タイトル:スカイ・クロラ
作者:森博嗣
出版元:中央公論新社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
 僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガーも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供<キルドレ>ー戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。


感想--------------------------------------------------
 ここでも紹介した森博嗣さんの作品です。本作「スカイ・クロラ 」は8月上旬から映画上映されますね。製作は「攻殻機動隊」で有名なあのProduction I.Gです。ちなみにスカイ・クロラとは、"The Sky Crawlers"のことです。"空を泳ぐ者たち"といったところですか?

 完全な平和が実現された世界で、平和を実感するために名前も知らない相手とあえて戦争を繰り広げる会社。その会社で、戦闘機のパイロットとして従事する主人公「カンナミ」。本作はその「カンナミ」と「カンナミ」の女性上司「草薙」の日常を中心に繰り広げられます。未来への希望もなく、いつか死ぬことを望んで毎回出撃するカンナミ。人から理解されることを拒み、空高く敵機を撃墜することだけを考える戦闘機乗り達。

 以前ここで紹介した「もえない Incombustibles」では「表現があまりにも淡々としている」と書きましたが、本作ではその淡々とした表現が戦時下にある閉塞した世界観に非常にあっているな、と感じました。

 「もえない Incombustibles」では主人公が高校生だったため、どうしても一般的な高校生の「明るい」イメージと森博嗣さんの文章の特徴の間にギャップを感じてしまい、違和感を感じていました。しかし本作では戦時下のどことなく閉塞した世界観、成長することもなく、戦争で殺されるまで死ぬこともなく、どこにも行けない閉塞した存在である"キルドレ"達の雰囲気が森博嗣さんの文調によってよりいっそう引き立っていると感じました。

 そして、極めつけは空中での戦闘シーンです。理系の作者だけあって、戦闘機の描写はすばらしく的確です。(一方で飛行機に詳しくない人にはエルロンとかラダーとかスポイラとか専門用語が多すぎてよくわからないかも知れませんが。)そして、一文一文を短く切って改行を続けることによって、緊迫感を引き出しています。森さんの小説にはよく見られる表現ですが、この小説では特に生きているなあと感じました。

 本作のテーマは・・・何でしょうね。難しいです。永遠とも思われる時の中を生きるキルドレたち。理解されることを拒み、過去を忘れ、空の上でだけ生きられる彼らは最愛の人を殺すことでしか愛情も表現できません。そして殺されてもなお再び生き続ける彼ら。切なさと悲しみが根底に流れる作品ですね。・・・よくこんな設定を思いつくなあ、と感嘆します。

 本作は私が読んだ森さんの作品の中では間違いなくNo1です。(3作しか読んでいませんが。)映画もぜひ見てみたいですし、続編「ナ・バ・テア 」は必ず読む予定です。




総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A