2017年03月18日

読書日記632:ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~


タイトル:ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~
作者:三上 延
出版元:KADOKAWA
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる

感想--------------------------------------------------
ドラマ化もされたビブリア古書堂の事件手帖の最新刊にして最終巻です。また一作、楽しみが終わってしまいました…。

祖父、久我山尚大の残した稀覯本、シェークスピアのファースト・フォリオ。数億円の価値を持つその本を巡り、栞子、母 智恵子、尚大の弟子の吉原はー。

本作では、本シリーズを通じて最も高価な本をめぐるドラマが繰り広げられます。シェークスピアのファーストフォリオはサザビーズで数億円で落札される古書。こんな本が実在すること自体が驚きでした。

相変わらず静かな雰囲気の作品です。古風でありながら落ち着いた雰囲気のビブリア古書堂の描写といい、栞子さんと、付き合い始めた大輔の関係といい、妹の文香や志田、滝野といった個性ある面々といい、安定した作品だと感じます。

本作はシリーズを通じて最も面白く感じました。数億の価値を持つ稀覯本をめぐる各人の思惑、クライマックスの振り市の場面などなど見せ場が多かったからだと思います。そして終わり方もすっきりしていて、本巻は上質のミステリーでした。

伏線の貼り方などいろいろとうまいな、と感じるところはありますが、何よりも古書の知識がすごいです。参考文献に書かれた書籍の数からして、著者がものすごく調査していることがよくわかります。あとがきにも書かれている通り、もがき苦しみながら生み出したのがよくわかります。−本編をよんでいると微塵も感じませんが。

うれしいことに、番外編はまだまだ執筆される予定のようです。個人的には後日譚をぜひ読んでみたいですね。すごく楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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posted by taka at 10:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 三上 延 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月11日

読書日記631:愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ



タイトル:愚者と愚者 (下) ジェンダー・ファッカー・シスターズ
作者:打海 文三
出版元:角川グループパブリッシング
その他:

あらすじ----------------------------------------------
月田椿子は亡くなった桜子を思って泣いたことは一度もなかった。爆弾テロの惨劇の映像が思い出され苦しめられるような経験もなく、そういう自分を責めたこともなかった。桜子の死を否認しているわけではなく、そもそも死んだのが桜子なのか椿子なのか、いまでもよくわからない。内乱16年目の夏、椿子が率いるパンプキン・ガールズは、きょうも首都圏のアンダーグラウンドで進撃をつづけている―。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんの作品、「愚者と愚者」の下巻です。「裸者と裸者」と同じく、主人公は上巻の海人から下巻では月形椿子に移ります。

二子の片割れ、自身の分身である桜子を失った椿子。しかし彼女は涙を流すことなく女の子たちを率いて戦場と化した都心で笑い生きていくー。

戦闘に次ぐ戦闘、そして流される血と転がる死体。パンプキンガールズ、黒い旅団、常陸軍、我らの祖国、etc、etc。この巻で描かれる東京はまさに地獄絵図、現代の中東の某国のような、いくつもの戦闘部隊が覇権を争うすさまじい戦場です。飛び交う銃弾や迫撃砲、躍進する戦闘ヘリに装甲車、そして交錯する様々な人々の思い。

でもしかし、そこにセンチメンタルな感情はみじんもなく、いまその瞬間を生きる「女の子」の姿が生き生きと描かれています。生き生きと今を生き、そして銃弾に倒れて死んでいく女の子たち。そこに描かれているのは紛れもなく生で、現実の戦争を生きる人々に最も近いのではないかと感じさせます。

刹那を生きる椿子をはじめとする女の子たちの生き様の描き方、発せられる言葉がとてもいいです。彼女たちを「女の子」と呼んでいるのが、なによりいいですね。

そして吉田伸子さんによるあとがきがまた秀逸です。他界された打海文三さんの以下の言葉がなによりいいですね。


「人類の過去を振り返ると、目も当てられないほどひどい歴史なんですよね。それを考えると、半分やけくそのような気分ですが、こうしてエンターテイメントとして表現した世界の方が、教訓めいたお話よりよっぽど現実に即していると思うんです。」


そう、椿子たちにリアリティを感じるのは、彼女たちが一時的な感情に惑うことなく物語の中で生きて、生を謳歌し続けているからなんですね。そこに読者は、物語の中を生きる海人たちと同じように、魅了されるんですね。

物語の途中、未完のまま他界されたのが残念でならない作品です。続きの作品もぜひ読んでみようと思います。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

2017年03月05日

読書日記630:愚者と愚者(上) 野蛮な飢えた神々の叛乱



タイトル:愚者と愚者(上) 野蛮な飢えた神々の叛乱
作者:打海 文三
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
応化16年、爆弾テロが激発している内戦下の首都圏で、規律ある精鋭部隊として名を馳せる孤児部隊の司令官に、佐々木海人は20歳にして任命された。教育を受ける機会を逃したまま、妹の恵と弟の隆を養うために軍隊に入り、やがて仲間とともに戦場で生きる決意を固めた。そして、ふと背後を振り返ると自分に忠誠を誓う3500人の孤児兵が隊列を組んでいたのだった―。『裸者と裸者』に続く、少年少女の一大叙事詩、第2弾。

感想--------------------------------------------------
打海文三さんの作品、「裸者と裸者」の続きです。「応化クロニクル」と呼ばれる本シリーズは上下巻の本作に加えて「覇者と覇者」がありますが、著者急逝のため未完となっているそうです。

常陸軍内部で確固たる地位を確立した海人は「黒い旅団」との激闘に巻き込まれていくー。

「裸者と裸者」で確立された世界観と各登場人物の個性を下敷きに、さらに苛烈な生き様が展開されていくのが本作です。主人公は「裸者と裸者」の上巻と同じく海人に戻っています。下巻の主人公、月形椿子の生き様にも興味はありますが、それはまた下巻で語られるようです。

無骨な描写は相変わらずですが、本書では関東一帯を舞台に様々な勢力が入り乱れての大混戦の様相を呈してきます。常陸軍、政府軍、宇都宮軍、パンプキン・ガールズ、紅い月、ンガルンガニ、中国マフィア、などなど。その中で確固たる地位を確保している海人の生き様は、「裸者と裸者」での描写よりも安定していて、人間的に見えます。

様々な主義主張の違いがぶつかりあう本作では"ゲイ"がストーリーに欠かすことのできない主軸となっていますが、これがすこしだけ違和感がありました。ここまでの存在感を示すほどに描く必要があったのかな?とは感じます。

戦闘の描写は相変わらず苛烈です。これは良い意味ですね。敵味方区別なく、容赦なく戦場を描ききるこの筆力は著者の魅力です。最後の結末も予想がついたとはいえ、読み終わるまで目が離せませんでした。

飾り気がなく無骨でありながら人の生き様の本質を描くような本作は本当に面白いです。下巻も読む予定です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス